第84話 人間って難しいな
文字数 1,934文字
父さんを今でも憎んでいる。それは確かだけれども容態を持ち直し、ほっとしたのも事実だった。
智と一緒に病室を出た、病院の暗い廊下を二人でとぼとぼと歩いていると智が悲しそうに呟いた。
「姉ちゃん、俺なんか父ちゃんに文句言ったらスッキリした」
「そう、良かったね」
「だから父さんの具合が悪くなった時、一瞬どうしようって思っちゃった」
「私も同じだよ、あんなに憎んでたのに、いざ容態が悪くなると心配になっちゃってさ」
二人で何がおかしいかわからないけれど、笑った。
「人間って難しいね」
智がポツリと丸山さんと同じことを言うのでまた笑った。丸山さんや智が言う通り人間は難しい、恨み憎む気持ちと許し愛する気持ちが同時に存在する。
これから先どちらにウェイトがかかって来るかわからないけれど、今日ここに来て良かった。
心からそう思う。
「姉ちゃん、三条のおじさんもあの女に誘惑されてたって本当?」
智と健はまだ小さかったのでお父さんの色々は話してなかった。もう25歳になり全てを話しても大丈夫だろう。
「本当だよ、お父さんが出ていって、三条のおじさんとおばさんが心配して家来た時にそうお母さんと話してたから。
あの女は高校時代に群馬に住んでたみたいで、田舎だからあの女がマドンナだったんだって」
「うえぇー、あれが?」
「そう、そう思うでしょ?」
また二人で笑った。これぐらいの悪口ぐらい許して欲しい。
「それであの女が三条さんとお父さんと同時に数ヶ月付き合ってたみたいで、そのせいで二人は親友だったのにバチバチって仲悪くなったんだって」
「それ、すげぇ話だな」
「でもすぐに女が東京に転校しちゃったみたいで、お父さんも三条さんも数年かけて元の親友に戻ったんだって」
「どうしてあの女群馬まで来たんだろうな?困ったかなんか知らないけれど、東京の男の所行けば良かったのに」
「あの女もまた可哀想なんだけれど、男に騙されて借金の連帯保証人になって首が回らなくなったんだって。それで東京で借りれる所には全部借りて、まだ足りなくて三条さんの所に尋ねていったみたい。
三条さんはしっかりした人だから一蹴して、父さんは馬鹿だし、見事に引っかかっちゃったんだよ」
「うわっ、父ちゃんって馬鹿だな」
「馬鹿だよ、本当馬鹿。噂によると爺ちゃんの遺産って億あったらしいけど、全部騙されて何もかも貢いじゃったんだろうね」
「捨てられてあんな事なってんのに、それでもあの女庇ってさ。俺息子として悲しいよ」
智は俯いた。私も娘として悲しい、父さんが自分で撒いた種なんだけれども、それでもあんな惨めな父さんはみたくなかった。
「今だから智に言えるけど、お父さんは馬鹿だからあの女のこと盲目的に信用しちゃってさ、三条さんですら父さんと直接話せなかったんだよ。
三条さんが養育費のこと言っても「お父さんは貯金が全くないから、ないものは払えません。借金があってその返済で養育費も払えない」って言って残高ゼロのお父さんの通帳と消費者金融の催促状見せて来たんだって」
「父ちゃんにお年玉無駄遣いするなって毎年怒られた記憶あるんだけど、どうしちゃったの?」
「洗脳に近い状態だったんだろうね。三条さん夫妻が色々頑張ってくれて、せめてもってあの女と交渉して実家の名義お母さんにしてくれたんだよ」
「そうだったんだ、三条のおじさんとおばさん本当有難いな。今度一緒に食事する時またお礼言うよ」
「そうだよ、本当に私達は三条さんはじめ今までいろんな人に支えられて生きてこれたんだよ」
「本当に有難いなぁ、周りの人達がいい人すぎて父さんのダメっぷりが目立つよな」
「でしょ?智も絶対父さんと同じことしないでよ!」
智はこの一連の流れを見て育って来たから絶対しないとは思うけれども、念のため釘をさした。
「俺はいい馬鹿だから、人を裏切ることは絶対しないよ、それに美子が一番好きだから」
「良かった。だからさ、世の中には三条さんみたいに浮気全くしない男もいれば、父さんみたいに浮気しやすい男もいるんだよ。私は絶対父さんみたいな自制心の弱い男とは結婚しないから」
「でも兄ちゃんは」とモゴモゴし出したので乾いた笑いが出た。
「あーはははっ。もう女遊びしないって言ってたけど、そればっかりはわかんないからね」と自虐的に笑った。
「でも俺兄ちゃん好きだから、多少浮気しても許せる」「何であんたが許す許さないを決めるの?付き合ってるの私だから」
私達はあの日と同じように必死に泣かないように明るく努めていた。
泣いてもいい事は一つもない、だったら笑っていた方がいい。
智と一緒に病室を出た、病院の暗い廊下を二人でとぼとぼと歩いていると智が悲しそうに呟いた。
「姉ちゃん、俺なんか父ちゃんに文句言ったらスッキリした」
「そう、良かったね」
「だから父さんの具合が悪くなった時、一瞬どうしようって思っちゃった」
「私も同じだよ、あんなに憎んでたのに、いざ容態が悪くなると心配になっちゃってさ」
二人で何がおかしいかわからないけれど、笑った。
「人間って難しいね」
智がポツリと丸山さんと同じことを言うのでまた笑った。丸山さんや智が言う通り人間は難しい、恨み憎む気持ちと許し愛する気持ちが同時に存在する。
これから先どちらにウェイトがかかって来るかわからないけれど、今日ここに来て良かった。
心からそう思う。
「姉ちゃん、三条のおじさんもあの女に誘惑されてたって本当?」
智と健はまだ小さかったのでお父さんの色々は話してなかった。もう25歳になり全てを話しても大丈夫だろう。
「本当だよ、お父さんが出ていって、三条のおじさんとおばさんが心配して家来た時にそうお母さんと話してたから。
あの女は高校時代に群馬に住んでたみたいで、田舎だからあの女がマドンナだったんだって」
「うえぇー、あれが?」
「そう、そう思うでしょ?」
また二人で笑った。これぐらいの悪口ぐらい許して欲しい。
「それであの女が三条さんとお父さんと同時に数ヶ月付き合ってたみたいで、そのせいで二人は親友だったのにバチバチって仲悪くなったんだって」
「それ、すげぇ話だな」
「でもすぐに女が東京に転校しちゃったみたいで、お父さんも三条さんも数年かけて元の親友に戻ったんだって」
「どうしてあの女群馬まで来たんだろうな?困ったかなんか知らないけれど、東京の男の所行けば良かったのに」
「あの女もまた可哀想なんだけれど、男に騙されて借金の連帯保証人になって首が回らなくなったんだって。それで東京で借りれる所には全部借りて、まだ足りなくて三条さんの所に尋ねていったみたい。
三条さんはしっかりした人だから一蹴して、父さんは馬鹿だし、見事に引っかかっちゃったんだよ」
「うわっ、父ちゃんって馬鹿だな」
「馬鹿だよ、本当馬鹿。噂によると爺ちゃんの遺産って億あったらしいけど、全部騙されて何もかも貢いじゃったんだろうね」
「捨てられてあんな事なってんのに、それでもあの女庇ってさ。俺息子として悲しいよ」
智は俯いた。私も娘として悲しい、父さんが自分で撒いた種なんだけれども、それでもあんな惨めな父さんはみたくなかった。
「今だから智に言えるけど、お父さんは馬鹿だからあの女のこと盲目的に信用しちゃってさ、三条さんですら父さんと直接話せなかったんだよ。
三条さんが養育費のこと言っても「お父さんは貯金が全くないから、ないものは払えません。借金があってその返済で養育費も払えない」って言って残高ゼロのお父さんの通帳と消費者金融の催促状見せて来たんだって」
「父ちゃんにお年玉無駄遣いするなって毎年怒られた記憶あるんだけど、どうしちゃったの?」
「洗脳に近い状態だったんだろうね。三条さん夫妻が色々頑張ってくれて、せめてもってあの女と交渉して実家の名義お母さんにしてくれたんだよ」
「そうだったんだ、三条のおじさんとおばさん本当有難いな。今度一緒に食事する時またお礼言うよ」
「そうだよ、本当に私達は三条さんはじめ今までいろんな人に支えられて生きてこれたんだよ」
「本当に有難いなぁ、周りの人達がいい人すぎて父さんのダメっぷりが目立つよな」
「でしょ?智も絶対父さんと同じことしないでよ!」
智はこの一連の流れを見て育って来たから絶対しないとは思うけれども、念のため釘をさした。
「俺はいい馬鹿だから、人を裏切ることは絶対しないよ、それに美子が一番好きだから」
「良かった。だからさ、世の中には三条さんみたいに浮気全くしない男もいれば、父さんみたいに浮気しやすい男もいるんだよ。私は絶対父さんみたいな自制心の弱い男とは結婚しないから」
「でも兄ちゃんは」とモゴモゴし出したので乾いた笑いが出た。
「あーはははっ。もう女遊びしないって言ってたけど、そればっかりはわかんないからね」と自虐的に笑った。
「でも俺兄ちゃん好きだから、多少浮気しても許せる」「何であんたが許す許さないを決めるの?付き合ってるの私だから」
私達はあの日と同じように必死に泣かないように明るく努めていた。
泣いてもいい事は一つもない、だったら笑っていた方がいい。