第105話 初めて過ごした朝

文字数 1,235文字

「姉ちゃん、兄ちゃんってタワマンに住んでんの?」
朝待ち合わせの駅で開口一番智がそう言った。
「普通のマンションだから」
「そうなんだ、兄ちゃんってやっぱり上手かった?」
「はっ?」
「兄ちゃんって数えきれないくらいの女抱いてそうだからさ」

私の堪忍袋の尾が切れそうになる前に美子ちゃんが怒ってくれた。
「そんなデリカシーのないことお姉さんに聞かないで!」
おまけに健にまで変な気を遣われる。
「そっとしておいてやれよ馬鹿」

「みんなが想像してることしてないから!」
「またまた姉ちゃんってば」

智はそう馬鹿笑いし、美子ちゃんと健に「いい加減にしろ」と怒られていた。さも関係を持ったような言われっぷりにムカムカしながらも会場へと歩いた。


NPO法人の建物は下町の町外れにあった。元ホテルを改装したそうで古いがしっかり手入れされてて少しホッとした。

健と私と美子ちゃんと智の四人でおそるおそる建物の中に入った。もう既に棺が運び込まれていて、祭壇に花が飾り付けされている。

私達は用意されたパイプ椅子に座り会の始まりを待っていると、十分後何人かの高齢の男性が階段を降りてホールに集まってきた。父さんと交流があった人達らしく棺の前で父さんとの別れを惜しんでいる。

数分後NPO法人の橋本さんの司会で式が始まった。

教会から神父さんも来てくれてとにかく一緒に祈った何から何までお任せしてしまったけれど、それが父が望んでいることのような気がしている。

教会のスタッフの皆さんの賛美歌を聴きながら父さんの冥福を祈った。

父さんは娘で自分似ということもあり私のことはとても可愛がってくれた、高校も本当は共学に行きたかったのに父の大反対で女子校に行かされた。父なりに私のことを心配してくれていたのだろう。

橋本さんは火葬場にも同行してくれて、お父さんの思い出話を覚えている限りしてくれ、その話をお父さんってそうだよなと思いながら懐かしく聞いていた。

そして全てが終わったのが午後四時だった。

最後に橋本さんに挨拶すると、「あなた達に神の御加護がありますように」と私たちの幸せを祈ってくれた。

父さんの残った荷物も見せて貰い四人で相談して遺骨以外の物は処分しようということになった。すると「ご遺族の方も複雑な感情があるでしょうからこちらで処分しますよ」とまで言ってくれた、本当にいい人だ、聖職者とはこういう人のことをいうなだろう。

美子ちゃんのお父さんが仕事帰りに大き目のワゴン車で迎えに来てくれたので、乗せてもらって高崎まで帰ってくると、美子ちゃんのお父さんが「最後だけど立派になった子供達に会えてお父さんも喜んでると思うよ」と言ってくれたことにまた泣けた。

高崎でみんなでご飯を食べた後、遺骨は智達に預けて新幹線に乗り込んだ、明日からまた仕事だから頑張らないと。

お母さんとお父さんは一緒にいない方がいいだろう、これが残された私達が下した結論だ。
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