第212話 伊豆の踊子
文字数 1,371文字
昨日は結局余り眠れなかった。
羊を数えても眠れない、リラクゼーション音楽を流しても眠れない、腕立て伏せや腹筋をしても眠れない、開き直ってオゾンモールで買ったレディースコミックを読むと余計に脳細胞が活性化され眠れない、果たしてこの通りできるのだろうか。
寝不足の私を乗せた北陸新幹線かがやきは大宮を過ぎ、東京の高層ビル群が青空に突き抜けて行くのが見えてくる。アナウンスが東京にもうすぐ着くのを知らせたので大きく息を吐き、読んでいた伊豆の踊り子を閉じた。
彼と東京駅の新幹線改札口で待ち合わせをしている。
待ち合わせ場所で辺りを見渡したけどまだ来ていないようだ。目の前を何十人もの人達が小走りに過ぎて行くのを眺めていた。
どうしても伊豆の踊り子の続きが読みたくなって、近くのベンチに座って読んでいた。
途中隣に座っていたおじさんが席を立ちまた違う誰かが座った気配がした。彼が来る前にどうしても最後まで読み切りたい。最後のページを読み終わり本を閉じた瞬間に耳元で囁かれた。
「お姉さんこれからお茶でも行きませんか」
横をみるとやっぱり彼だった。いつもの帽子に今日は眼鏡をかけていた。
「いつの間にいたの?」
「十分前ぐらい、本読んでる姿見たことなかったから、いいなと思ってずっと見てた。亜紀は本が似合うね」
「それ褒め言葉なの?地味で大人しそうだからでしょ?」
彼が私の本を手に取ると「伊豆の踊り子か、タイムリーだな」「昔二回くらい読んだんだけど、伊豆に行くから読み直そうと思って」
「この本の好きな所どこ?」
「前提として薄っぺらい感想しか出てこないからね。孤児根性って言う言葉が好き。誰にでも共感できるんだけど敢えてこの言葉をね」
私が伊豆踊り子について語っているのを彼は何故だかニコニコと聞いている、変な人。
「じゃあ俺もそういう視点でもう一回読んでみるよ」と彼は言った。
「今日は眼鏡なの?」
「亜紀といる時に声かけられたくねぇだろ?なぁ飯くった?」
「ご飯、そういえば食べてないかも」
「週三は東京駅に来るから詳しいよ、どこでも連れてってやる。何食べたい?」
「ラーメン」
「何でラーメンなんだ、向こうにもあるだろ?」
「一人で入れないじゃん」
「入ればいいだろう」
「一人でラーメン屋っておっさんみたいじゃん」
「おっさん馬鹿にしてんのか、全国津々浦々のおっさんが怒るぞ」
「おっさん代表なの?」
「まだおっさんのペーペーだから代表ではない」
彼はそう言うと私の手を繋いで歩き出した。そのまま繋がれてればいいのに、久しぶりに手を繋がれ焦った私はついつい余計なことを言ってしまう。
「大丈夫?週刊誌とか」「誰が俺のプライベートそんなに知りたいんだよ。丸山彼女と手繋ぎデート、ふーんでページめくられて終わりだろ」
「まぁ確かに」
「確かにっていうな」と彼は笑った。
「全然撮ってもらって構わない。何にも悪いことしてないし、俺の彼女って顔出しで紹介してもいいぐらい」
彼がそう言って胸を張った。
「私も全然大丈夫」
私の意外な一言に彼に驚ろかれじっと見つめられた。
「だって顔にモザイクかかるよね、一般人のA子さんって」
「いやわからんよ、目線隠すだけかもな」
「でも別にいいや。私を知ってる人まさか私と重ちゃんがつきあってるなんて信じないと思う。似てる人で処理すると思う」
そう言うと彼は不満そうに「ああそう」と呟いた。
羊を数えても眠れない、リラクゼーション音楽を流しても眠れない、腕立て伏せや腹筋をしても眠れない、開き直ってオゾンモールで買ったレディースコミックを読むと余計に脳細胞が活性化され眠れない、果たしてこの通りできるのだろうか。
寝不足の私を乗せた北陸新幹線かがやきは大宮を過ぎ、東京の高層ビル群が青空に突き抜けて行くのが見えてくる。アナウンスが東京にもうすぐ着くのを知らせたので大きく息を吐き、読んでいた伊豆の踊り子を閉じた。
彼と東京駅の新幹線改札口で待ち合わせをしている。
待ち合わせ場所で辺りを見渡したけどまだ来ていないようだ。目の前を何十人もの人達が小走りに過ぎて行くのを眺めていた。
どうしても伊豆の踊り子の続きが読みたくなって、近くのベンチに座って読んでいた。
途中隣に座っていたおじさんが席を立ちまた違う誰かが座った気配がした。彼が来る前にどうしても最後まで読み切りたい。最後のページを読み終わり本を閉じた瞬間に耳元で囁かれた。
「お姉さんこれからお茶でも行きませんか」
横をみるとやっぱり彼だった。いつもの帽子に今日は眼鏡をかけていた。
「いつの間にいたの?」
「十分前ぐらい、本読んでる姿見たことなかったから、いいなと思ってずっと見てた。亜紀は本が似合うね」
「それ褒め言葉なの?地味で大人しそうだからでしょ?」
彼が私の本を手に取ると「伊豆の踊り子か、タイムリーだな」「昔二回くらい読んだんだけど、伊豆に行くから読み直そうと思って」
「この本の好きな所どこ?」
「前提として薄っぺらい感想しか出てこないからね。孤児根性って言う言葉が好き。誰にでも共感できるんだけど敢えてこの言葉をね」
私が伊豆踊り子について語っているのを彼は何故だかニコニコと聞いている、変な人。
「じゃあ俺もそういう視点でもう一回読んでみるよ」と彼は言った。
「今日は眼鏡なの?」
「亜紀といる時に声かけられたくねぇだろ?なぁ飯くった?」
「ご飯、そういえば食べてないかも」
「週三は東京駅に来るから詳しいよ、どこでも連れてってやる。何食べたい?」
「ラーメン」
「何でラーメンなんだ、向こうにもあるだろ?」
「一人で入れないじゃん」
「入ればいいだろう」
「一人でラーメン屋っておっさんみたいじゃん」
「おっさん馬鹿にしてんのか、全国津々浦々のおっさんが怒るぞ」
「おっさん代表なの?」
「まだおっさんのペーペーだから代表ではない」
彼はそう言うと私の手を繋いで歩き出した。そのまま繋がれてればいいのに、久しぶりに手を繋がれ焦った私はついつい余計なことを言ってしまう。
「大丈夫?週刊誌とか」「誰が俺のプライベートそんなに知りたいんだよ。丸山彼女と手繋ぎデート、ふーんでページめくられて終わりだろ」
「まぁ確かに」
「確かにっていうな」と彼は笑った。
「全然撮ってもらって構わない。何にも悪いことしてないし、俺の彼女って顔出しで紹介してもいいぐらい」
彼がそう言って胸を張った。
「私も全然大丈夫」
私の意外な一言に彼に驚ろかれじっと見つめられた。
「だって顔にモザイクかかるよね、一般人のA子さんって」
「いやわからんよ、目線隠すだけかもな」
「でも別にいいや。私を知ってる人まさか私と重ちゃんがつきあってるなんて信じないと思う。似てる人で処理すると思う」
そう言うと彼は不満そうに「ああそう」と呟いた。