第16話 コスモ山浦

文字数 951文字

秋の長雨が降り続く木曜日の夜、私は困っていた。

日曜日に丸山さんが来るのにレストランが見つからないのだ。

隣の席のグルメな音楽の先生、敏雄先生に美味しい店を聞いても、卒業生や保護者が働いてる店ばかりで、とてもじゃないけれど丸山さんと二人で行ける訳がない。

かと言ってあの自称山浦派の二人に相談したら、大騒ぎされて誤解されまくりそうなので言えない。

間違いなく「ワンチャン、ワンチャン」と狂ったように言われるのが目に見えている。タオルを届けに来てくれるだけなのに。

後はラーメン屋と全国チェーン店しかない。

本当にどうしたらいいのだろうか。



夜家に帰ると丸山さんから「明日やっと日本に帰れます」というメールが届いていた。

丸山さんはメール好きなのか何なのか知らないけれど、毎日メールをくれる。それによると昨日から中国にロケに行っていているらしい。

昨日、「中国でも携帯通じるんですね」と返信すると「アフリカは通じない所も多いけれど、アジアは大抵大丈夫」と返ってきた。

今日は返信ついでに丸山さんに何が食べたいか聞いてみると、30分後に「前に一度長野で食べた山賊焼が美味しかったから、食べてみたいな」と返信があった。

山賊焼は松本市の名産品だ。私が住んでいる佐久平から松本まで車で一時間半かかる。

同じ県内だけど、全く違う地域なのだ。

長野県に由来がない人あるある「山賊焼が長野県全ての地域の名産品だと思ってしまう」をまざまざと見せつけられ私はさらに困っていた。

母さんがこの松本の出身だったから、何回か行ったことはあるし、山賊焼は何度も作ったことがある。

智とか健に作ってあげてた時は喜んで食べてくれていた。



もうこうなったら、家に呼んで作ろうかな。アパート駅から近いし。



私は自慢じゃないけど生粋の田舎者だ。小学校の同級生は五人しかいなかったし、物心つく頃から近所の人は好き勝手に家に出入りしていた。

だから弟達と住んでいた時も、弟の友達が沢山来ても平気だし、自分の友達の友達を連れてこられても何とも思わない。

だから、別に丸山さんを部屋に呼ぶことに何の抵抗もない。

向こうも私相手に変な気起こさないだろうし。忘れ物届けに来てくれるだけなんだから。
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