第275話

文字数 1,089文字

美子ちゃんのお父さんの友達の弁護士さんが色々手を尽くして下さり、父の色々なことがわかってきた。

2月最初の木曜日、父の通帳の履歴を取り寄せたのを画像で送って貰った。家を出て行ってからちょくちょく例の女の口座にお金を振り込み五年かけて約五千万円もの大金を女に貢いでいた。

それに対して残高の52円という数字が物悲しさを際立たせている。

弁護士さんが女に電話すると、借用書は無くしたと言って電話が切れたらしい。やっぱり嘘だったんだ。

大きなため息と共に翌日の金曜日を迎えた。今日も子供達が帰宅し、学校は静けさを取り戻している。

誰もいない教室でテストの採点をしていると校内放送が流れた。

「山浦先生、至急校長室までお越しください」

保護者がクレームでも言いに来たのだろうか、寒い廊下を歩き校長室へ向かう。


校長室には校長先生、教頭先生、村長、観光協会会長と婦人会会長そして斉藤君がいた。

皆の机の上に二月十四日の計画と書いた資料があったので、今度のテレビ取材の計画でもしていたのだろう。村のゆるキャラやら名産品のレタスのことが書いてある。

担任である私の意見が聞きたかったのだろうか?というかこれ緊急に私を呼び出す程のことなのだろうか。

ふともう一度校長室を見渡すと、見知らぬ男女が二人いることに気が付く。女の顔を数秒見てそれが誰だか気づいた。

あのふくよかな体、細い目に厚い唇、十七年前に会ったことがある。

この人は間違いなくうちの家族をぶち壊した例の女だ、隣にはスーツを着た知らないサラリーマン風の男の人が隣に座っている。

女は何故だか私を見たら胡散臭く泣き始めた。
男の方が私を見て「山浦康二さんの娘さんですか?」と尋ねた。
「はい」と答えると「今日はお父さんの残した借金のことでお尋ねしたんですが」

こんな村人が見てる中でそれやる?
おそらく会議中に強引に入ってきて、野次馬根性で村長達もまた出て行かないのだろう。

とにかく職場である以上穏便に済まさなければならない、できるだけ感情を入れないように淡々と答えた。

「その件でしたら、もう弁護士を立てておりますのでそちらと話し合って下さい」

「いや、確かに法律上はそうなんですが、でも彼女の貸したお金であなた大学に行けたんですよね?ちょっとぐらい返してもいいのではないですか?」

「一体何の話ですか?」
「ほらちゃんと借用書もありますよ」

男が机の上の数枚の紙切れを私に差し出した。
一番上の紙を見るとパソコンで作ったらしく明朝体で百万円借りました。山浦康二と昔の日付が書いてあり100円ショップで買った印鑑のような簡易な判子が押してあった。

あまりにお粗末で乾いた笑いが出る。





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