第313話 同窓会
文字数 1,532文字
構内に下り列車の到着アナウンスが流れる。
大きく息を吸った。
「もうこんな思いしたくない。全部話すから聞いて」
待合室からサラリーマンが二人出てきて私達を追い越していく。
彼は私を見ずにこう呟いた。
「話さなくていいよ、わかってるから」
新幹線が到着したようで轟音が二人だけの構内に響く。
涙で前が見えない、それでも言わなければならないことがある。
「でも話させて、ちゃんと話さないと次に進めない、本当は三月末だって決めてたけれど、伸ばせば伸ばすほどつらいよ。だから、もう会うことはないかもしれないけれど、ずっとしげちゃん」
「勝手に一人で話進めんな!俺が悪いよ。わかってるようでわかってない人にちゃんと言わなきゃいけないことそのうち言おうってほっといて」
「……悪くないよ、私がちゃんと最初に言わなくちゃいけなかった」
新幹線から降りてきた人がエスカレーターからパラパラと降りてくる。
彼は階段の前で足を止めた。
「テレビであんなに好き勝手言ってるのも、笑って見てくれてると勘違いしてた。昨日の夜まであんなに肩落として見てたなんてわかってなかった。本当にごめん」
彼はようやく私の悲しみに気がついたようだ、大分遅いよ。
何だかそれが面白くて小さく笑った。
「もういいよ、大丈夫」
「大丈夫じゃないだろ?何で俺に悲しい思いしてるって言わなかったんだよ。結果今こんな事になってるから。小さな不満を溜め込んで勝手に思い詰めるの止めろっていつも言ってんだろ?」
確かにいつも彼にそう言われていた。
「そうだねごめん、私が悪かった。でももういいじゃん」
彼を宥めるように優しく言った。こんな時まで喧嘩したくない。
「良くねぇよ。それにどこからどういう視点で見ても100パーセント俺が悪いよ」
「悪くないよ、生き方が違っただけ。仕方ないよ」
彼がちょっと怒ったように言った。
「いい加減そのすれ違いコント止めろ。何が三月末なんだよ!」
「……コ、コント?」
私は至って真剣な話をしていた、困惑しながら彼を見つめた。
「なぁ亜紀少し時間をくれ、俺にかっこつけさせて」
「……いや、だから時間がないんだって。今ちゃんとわ」
次の瞬間、彼が明るい顔でぶっ飛んだことを言い出す。
「俺、明日からガンジス川に六日間なんだよ」
「ガ、ガンジス川?インド?明日?そんな話ひとつも聞いてないけど」
「俺のこういう所が駄目なんだよな、自分中心に世界は回っていて、周りにいる人間は苦労しているということはよくよくわかってはいる。わかった、インドでサリー買ってきてやる」
彼の底抜けた明るさに押されて思わず普通の会話をしてしまう。
「……サリー……どうやって着るのかな」
その時上り方面の新幹線がホームに入ってくる音がした。
「じゃあ俺もう行くよ、絶対に遅刻できないから」「……うん、気をつけて」
別れ話をしていたのに何だかガンジス川で上手く丸め込まれてしまった。
結構な勇気を持って切り出したのに、私はこの先どうしたらいいのだろう。
昔の職場のバツイチの人が「結婚する時よりも離婚するときの方がエネルギーを消費する」と言っていたのがようやく意味を理解できたような気がする。
だからこそ、結婚願望のある女性は最初にみんな「結婚を前提とした付き合いなのか」と相手に確認しているのだ。
ホームへと向かう彼の背中を呆然と見つめていた。
二、三歩階段を登った所で重ちゃんは振り返った。
「あのさ、俺はいつも亜紀のこと一番に考えてる。何が「寂しくなるね」だよ!俺の愛を疑うな、俺のこともっと信用してくれ」
そう言うと私の返事も待たずに走って階段を登っていってしまった。
……しげちゃんって寝たふり上手だな
と余計なことを考えていると、頭上のホームから東京行きの新幹線が発車するメロディ音が聞こえた。
大きく息を吸った。
「もうこんな思いしたくない。全部話すから聞いて」
待合室からサラリーマンが二人出てきて私達を追い越していく。
彼は私を見ずにこう呟いた。
「話さなくていいよ、わかってるから」
新幹線が到着したようで轟音が二人だけの構内に響く。
涙で前が見えない、それでも言わなければならないことがある。
「でも話させて、ちゃんと話さないと次に進めない、本当は三月末だって決めてたけれど、伸ばせば伸ばすほどつらいよ。だから、もう会うことはないかもしれないけれど、ずっとしげちゃん」
「勝手に一人で話進めんな!俺が悪いよ。わかってるようでわかってない人にちゃんと言わなきゃいけないことそのうち言おうってほっといて」
「……悪くないよ、私がちゃんと最初に言わなくちゃいけなかった」
新幹線から降りてきた人がエスカレーターからパラパラと降りてくる。
彼は階段の前で足を止めた。
「テレビであんなに好き勝手言ってるのも、笑って見てくれてると勘違いしてた。昨日の夜まであんなに肩落として見てたなんてわかってなかった。本当にごめん」
彼はようやく私の悲しみに気がついたようだ、大分遅いよ。
何だかそれが面白くて小さく笑った。
「もういいよ、大丈夫」
「大丈夫じゃないだろ?何で俺に悲しい思いしてるって言わなかったんだよ。結果今こんな事になってるから。小さな不満を溜め込んで勝手に思い詰めるの止めろっていつも言ってんだろ?」
確かにいつも彼にそう言われていた。
「そうだねごめん、私が悪かった。でももういいじゃん」
彼を宥めるように優しく言った。こんな時まで喧嘩したくない。
「良くねぇよ。それにどこからどういう視点で見ても100パーセント俺が悪いよ」
「悪くないよ、生き方が違っただけ。仕方ないよ」
彼がちょっと怒ったように言った。
「いい加減そのすれ違いコント止めろ。何が三月末なんだよ!」
「……コ、コント?」
私は至って真剣な話をしていた、困惑しながら彼を見つめた。
「なぁ亜紀少し時間をくれ、俺にかっこつけさせて」
「……いや、だから時間がないんだって。今ちゃんとわ」
次の瞬間、彼が明るい顔でぶっ飛んだことを言い出す。
「俺、明日からガンジス川に六日間なんだよ」
「ガ、ガンジス川?インド?明日?そんな話ひとつも聞いてないけど」
「俺のこういう所が駄目なんだよな、自分中心に世界は回っていて、周りにいる人間は苦労しているということはよくよくわかってはいる。わかった、インドでサリー買ってきてやる」
彼の底抜けた明るさに押されて思わず普通の会話をしてしまう。
「……サリー……どうやって着るのかな」
その時上り方面の新幹線がホームに入ってくる音がした。
「じゃあ俺もう行くよ、絶対に遅刻できないから」「……うん、気をつけて」
別れ話をしていたのに何だかガンジス川で上手く丸め込まれてしまった。
結構な勇気を持って切り出したのに、私はこの先どうしたらいいのだろう。
昔の職場のバツイチの人が「結婚する時よりも離婚するときの方がエネルギーを消費する」と言っていたのがようやく意味を理解できたような気がする。
だからこそ、結婚願望のある女性は最初にみんな「結婚を前提とした付き合いなのか」と相手に確認しているのだ。
ホームへと向かう彼の背中を呆然と見つめていた。
二、三歩階段を登った所で重ちゃんは振り返った。
「あのさ、俺はいつも亜紀のこと一番に考えてる。何が「寂しくなるね」だよ!俺の愛を疑うな、俺のこともっと信用してくれ」
そう言うと私の返事も待たずに走って階段を登っていってしまった。
……しげちゃんって寝たふり上手だな
と余計なことを考えていると、頭上のホームから東京行きの新幹線が発車するメロディ音が聞こえた。