第139話 夜の街で
文字数 1,726文字
「……もういい。何かしげちゃんに対する怒りが大分減っちゃった」
「直ぐに怒り減らすな、俺が調子づくだろ」
「怒るって体力使うし、叱るは仕事でやり慣れてるけど、怒るのは滅多にないからもう疲れちゃった」
「何だよそれ、さっき女性用風俗店行ってやるって言われて恥ずかしい話だけど、俺初めて亜紀ちゃんの気持ちわかった。気持ちがあろうがなかろうが、プロだろうが嫌なもんは嫌だな」
「……今更?自分がされて嫌なことは人にしちゃいけないでしょ?」
「はい、本当にその通りです。本当に申し訳ありませんでした。彼女や奥さんがいるのに風俗に堂々と行っていいのは、相手が女性用風俗店に行くのを許せる奴だけ。俺は死ぬ程嫌だから、頼むから行かないで下さい、お願いします」
彼は正座したまま深々と頭を下げた。
「行かないけど、まだ腰痛いから週末に整体は行くから!」
「整体もやめて、知らないオヤジに亜紀の体ベトベト触られるとら思ったら気がきじゃないから」
彼の悲壮感漂う顔を見て思わず吹き出してしまった、もう仕方ない。私は甘いのだ、この性格今更変えられない。
「……じゃあ病院行ってくる」
「病院ならまだ許せる、俺は亜紀の行動これだけ制限してたのに、自分は好き勝手なことしてた。本当に最低だと思う、俺のこともっと怒ってくれ」
「後一週間ぐらい経たないと無理、体力ない。いつもキーキー怒ってる人たまにいるけど、ああいう人の体力半端ないよ」
「もう俺がやったことどうでもいいの?」
「どうでもよくないけど、それよりもなんであんな取り乱したんだろうって反省してる。別に風俗行ったりするのなんて個人の自由だし私にとやかく言う権利なんてないのに」
「あるだろ!付き合ってるんだから!」
「ないよ。例え恋人だろうが他人が何をしようとその人の行動止める権利ってある?」
「……さっきみたいに感情の赴くままにキレられるより、こっちの攻撃の方が堪えるな」
彼がそう言って机の上のお茶を飲んだ。
「別に攻撃してないから。あんなに取り乱してみっともない、本当に恥ずかしい」
「俺はでも嬉しかったよ。いつも冷静な亜紀ちゃんがあそこまで取り乱して、凄く愛されてるんだって思った。俺はいつでも亜紀ちゃんを大切に思ってる」
「……重ちゃん」
愛しい気持ちで彼と見つめ合うこと数秒、フツフツと怒りが再び湧いてくる。
今度は絶対に感情的にならない、そう誓った。とにかく気の済むまで淡々と自分の思いをぶつけることにした。
「……大切に思ってくれてるなら、なんでお店行ってたの?私に納得いくように説明して」
「淡々と言われる方が堪えるな。……いやだから、あのですね男には性欲というものがあって」
「そんなこと知ってます」
「女の人には理解できない感覚だと思うんですが、男は元々風俗店に行くことをそんなに大した問題だと捉えてなくて、一人でAV見てるのと変わらない感覚で如何わしい店に行く奴が多い。素人だったら浮気になるけど、プロは違うだろ?っていうのが男の身勝手な主張で」
「男の人になったことないから全く理解できない感覚」
「それでも女の人は風俗は許せないと考えてる人達が多いということは男もわかっている。
特にあきちゃんにはまず理解されないなとはわかっていたんだけど、いっちゃダメだという天使の俺とあきちゃんは東京に住んでないから後一回行ってもバレないっていう悪魔の俺が戦ってて、毎回悪魔の俺が僅差で勝つっていう」
「どうして悪いとわかってるのに行くの?」
「……だから、誰でもいいから女抱きたいなっていう時があって、店入った時とかしてる最中とか最高に楽しいんだけど、行った後は凄く後悔する。
店出た後の後味の悪さは言い表せない。本当にもう二度と行かないって思うんだけど一週間したらまた行ってる」
「依存症の人みたいな言い訳してる」
「一緒にしないでください。性依存症じゃないです、俺はもうきっぱり辞められます」
まだ気がすまないのでもっと攻めてやる。
あくまで淡々と喋るのを崩さないスタンスでいく。
「何歳の時からどれぐらいの頻度で通ってたの?」