第302話 同窓会
文字数 1,139文字
「塚田君、酔い過ぎだよ。水飲んで目覚まして」
そう言ってお冷をあげた。
周りの人達は何故か「えー!」と叫んだ。
「いや、えーじゃなくて」と私が言うと春子が私の手を引っ張った。
「みんなちょっと十分だけ二人で飲まさせて」
席を移動してカウンター席で二人で並んで飲んだ。
「ねぇいい?どんなに好きな相手でも、結婚したらそれが日常になるの。細かい生活のズレが積み重なり、恋愛感情はほぼゼロになる」
「それは春子調べなの?」
「春子調べだよ!子供ができたら相手に求めるのは安定した収入と穏やかな性格、それ以上でもそれ以下でもない。塚田君なんか最高じゃん!公務員で優しい穏やかな性格」
「いやだから、付き合ってる人がいるんだってば。それに塚田君にだって選ぶ権利はある。塚田君レベルになると、25歳以下の家柄のいい容姿端麗な家事育児を殆ど引き受けてくれる共働き希望の子狙える」
「どこかの勘違い婚活オヤジみたいなこと言うな。塚田君は大丈夫、亜紀と付き合いたいんじゃないかな、そんな気がする」
「……そうかな」
一瞬考えてはみたけれど、塚田君の私に対する態度は久しぶりに会った同級生に対する対応以外の何者でもない。
「塚田君は置いといてもさ、怪しい男のことなんだけど、結婚する気ない、子供作る気ないってうちらの年齢じゃ付き合うの致命傷じゃない?別れるなら1日でも早めの方がいいよ、一日長ければ長いだけつらくなるよ」
春子の言葉が胸の奥に突き刺さった。どうしてこんなにショックを受けているかというと私がここ最近一番悩んでいることだからだ。
考えないように考えないように目を逸らしてここまできた。けれども三月だと先送りにした宿題はやっぱりやらなくてはならないのだ。
「ねぇ亜紀、女にははっきりと目に見えるタイムリミットがある。子供好きの亜紀が一番良くわかってるでしょ?」
ピーチジュースを一口飲み「わかってる」と言った。
「このままズルズル付き合って40過ぎて他に好きな人ができたって言われたら、悲惨以外の何者でもないよ」
「……そうだね」
確かに春子の言う通りそういう未来が想像できないでもない。
今は始まったばかりの恋だからいいのかもしれない、でもこれが何年も続いた時にどうなるのか。
「自分のこと大切にしなさいよ、相手じゃなくて自分だよ」
春子の言葉が身に染みた。やっぱりどれだけ悩んでも私と彼に未来はないのだ。そして別れるのは1日でも早い方がいい。
その事実を少しずつ受け止めていかなければならない。
そして二人で輪の中にまた戻った。
帰り際みんなでLINEグループを作ろうということになりLINEをインストールしていなかった私も春子にインストールして貰った。
LINEやるなんて10歳若返った気分だ。
明日も学校か、新幹線に乗り家路に着いた。