第504話 日曜日

文字数 1,295文字

 昼前まで就寝。そして罪悪感を伴う目覚め。
 家人の、何かごそごそする音がする。ぼくは寝床に横たわったまま本を読む。寝巻きのまま。着替えもしない。
 ─── 昼前だというのに、だらしのない人間。
 実際だらしがないのだから、そう思われても仕方がない。何をカッコつけようとしているのか。
 午後になれば、Gパンにはき替える。上は、寝ていた時着ていた長Tシャツのまま。パソコンに向かう。家人が窓を開ける。窓を開けられると、寒い。家人は、ぼくの吸うタバコの匂いが気に入らない。上からトレーナーを着る。

 パソコンの前。空気清浄機。アイスコーヒー、タバコ。
 昨日の来訪者で、すっかりストレスが溜まったらしい猫と家人。猫はニャアニャア言い、家人は無言を貫く。玄関の下駄箱の上には、ビールの缶が10本くらい並んでいる。
 ───まったく、こんなに飲んで…。
 もう飲んでしまったのだから、どう思われようが構わない。

 いつのまにか夕方になる。日が暮れるのが早くなった。1日24時間は変わらない筈なのに、1日が短くなったよう。
 家人が、一緒に買い物に行きたそうな素振りを見せる。ぼくは、「行かない。」家人がひとりで出て行く。
 ぼくは風呂で半身浴して読書をする。汗をかく。いい汗だ。
 風呂あがり、豚汁を食べる。野沢菜も切って食べる。わさび味の野沢菜のほうが美味しいとおもう。
 ベランダの外は夕暮れだ。急に、せつなくなる。なんという1日! ぼくはまだ、1日を使い切っていない。

 バンテリンを買いに行かねば。バンテリンを。
 ズル休みしたり、有給休暇取ったりで、新しい仕事をぼくはマトモに5日間やっていない。
 明日からの5日間、ちょっとした勝負なのである。
 居間のこたつで薄目をあけてねている家人に声をかける。「行く?」「行かない。」
 マツモトキヨシでバンテリンもどきを買う。(バンテリンは高かった。)
 100円ショップで風呂掃除の時に使うスリッパと、食器洗い用のスポンジ(5枚入って100円だぜ)を買う。

 スーパーに行ったら、店先で焼き鳥屋が屋台を出していた。
 米、卵、納豆、お茶などを買って、焼き鳥を買う。
「すぐそこのFってスーパーの店の前にも、焼き鳥屋さん、あるんですけど、あそこよりこっちのほうが美味しいです。」ぼくが焼き鳥屋に笑って言う。
「ありがとうございます。」主人が笑顔で答える。
「浮気はダメよ、って、他のお客さんにも言ってるんですよ。」奥さんが笑って言う。
「いや、ぼく、1回だけですよ、1回だけ。」何を弁解してるのかね。

 ママチャリの後ろに米の袋をヒモで巻き付け、前のカゴも買い物袋。カゴに入り切らないので、ハンドルの片方にも提げる。
 午後6時半。もう、真っ暗だ。

 ぼくは、白夜の国に住むべきなのかもしれない。そうだ、そうするべきだ。
 夜はいやだ。朝が来るから。しかし白夜の国でも、朝は来るのだ。逃げることはできない。たとえ世界の果てに行こうとも。
 出口なし。 I cannot find an exit .
 そうだ、死ぬまで、出口なんか、ないのだ。パラダイスは、自分でつくるものなのだ。世界の果てに行こうとも。
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