第260話 期間従業員日記(29)

文字数 1,160文字

「インジェクタ」問題について。
 6月13日(火)、ぼくは課長に「反対番のインジェクタの取り方、心配です。」と言った。ガソリンの流れる燃料系の部分、だいじなOリングに触れて取るやり方、万が一異物がついたら車両火災につながるから。

 課長が反対番のGLに「Oリングに触れないように」と言ってくれたのが6月19日(月)。
 ぼくは2直。作業場へ行くと、Oリングに触れないで済む形でインジェクタの入った箱が棚に収まっていた。
 およよ、反対番、課長の言うことを聞いてくれたのか。
 そう思ったのも束の間だった。
 ぼくの組のグループリーダーが来て、「Oリングに触れてもいい」趣旨を伝えられた。
 理由は、
 ・インジェクタの中に入っている液体が肌に触れると、かぶれる。(反対番の作業者がその症状になったという。)これはつまり、ぼくのやり方ではガソリンの噴射口を上にして持つため、下からその液体が流れ易く、そのために手首がかぶれたというのだ。
 ・インマニが正常に稼動するか否かをチェックする機械の中で、インジェクタが軽い爆発を起こした。その液体を吸った作業者が気分を悪くした。
 これも、ぼくのやり方では液体が流れてしまうので、それが悪い作用を及ぼして、そうなったのだということらしい。

「ホントかよ、って感じだよね。」ぼくの組のチームリーダーが言った。
 今までこのブログに記した復習になってしまうが、「教育」のトレーナーは、「Oリングに触れてはいけない」と言っていたのだ。V8ラインもそうやって作業しているし、前職場のグループリーダーも「触れないほうがいい」と言っていたのだ。前職場や前々職場の人たちを含め、10人中10人が「触れるのはよくない」ということだったのだ。

 今まで、何年も、Oリングには触れないように、多くの作業者がやってきたはずなのだ。そうしてぼくはそのまま教わったのだ。そして今の今まで、「かぶれ」だの「爆発」だの、起こったこともないのだ。
「品質の上では、かめくんのやり方が正しい。」ぼくの組のリーダーは言った。「ただ、安全面では、いけない。」

 Oリングに触れないようにやれ、という課長の指示を、反対番のリーダーは一時は受け入れたそうである。だが、触れないようにやった途端、「かぶれ」と「爆発」が起きたというのだ。どう考えても不自然であることに疑いの余地はないと思われるのだが。何年も、このやり方でやってきて、かぶれも爆発もなかったのだから。

 まぁ、「安全第一」が至上である。
 取って付けたような「事故」と「疾病」が起きた以上、Oリングに触れなくてはインジェクタが取れないやり方を、これからこの会社は続けるのだ。会社といっても、愛知県に数箇所ある工場、海外に数箇所ある工場のうちの小さな一角、このぼくのいるラインだけだろうけれど。
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