第135話 背中の痛み

文字数 1,002文字

 始業前に、5分間の体操の時間がある。
 隣りにいた20歳の青年に、「元気?」などと話しかけながら体操をしていたら、背中に違和感を覚えた。
 自分の持ち場に入り、作業を始めると、呼吸をするたびに、胸と背中が痛くなった。深呼吸をしようとしても、痛くてできない。
 ─── これ、やばいんじゃないかな。
 息苦しさに、しゃがみ込むと、一緒に作業している新入社員が、「大丈夫ですか」と心配そうに言った。
「ダメです」
 そう言いながらも、いつもよりスローペースで作業を続ける。ちょっと動いただけで、背中に痛みが走る。呼吸するのがつらい。

 休憩時間になって、休憩所へ歩く。歩く振動で背中が痛み、どういうわけか胸も痛む。
 タバコを一服。それから再び自分の持ち場へ。昼食時まで、どうにかもった。
 ロッカーでバンテリンもどきを背中に思い切り塗る。そしたら、気のせいか、痛みがやわらいだ。

 しかし1日の仕事が終わる頃、またしてもゆっくりと違和感が復活。鈍痛と激痛が入り交じり、やはり息を大きく吸い込むことができない。
 ─── 神さまからのメッセージだナ。(神なんか信じちゃいないくせに。)
 身体に、何か異常がある時、私はそう考えるようになった。いつからだろう?
 17の時から覚えたタバコ。1日に、多い時2、3箱も吸うようになった。
 なんとなく鬱屈している精神。穢れのない願望が、どこかへ霧散した。
 ─── もっと、大切にしろよ、おまえ。
 そんなメッセージが、病気であれ、心の傷であれ、そういう形になってあらわれる。

 きのう、職場の上司の態度について書いた。
 だが、もちろん、そんな「わるい」人たちばかりではない。(人に、いい、わるい、なんて、言えるわけもないのだが。)
 仕事が終わって、休憩所にいると、もうひとりの上司が、「かめさん、これ、うちのネコ」と何枚か写真を見せてくれた。見ると、本気で可愛い。アメリカン・ショートヘアの子猫。
 CDとビデオ(音楽のですヨ)をくれた、またべつの上司。56歳になっても元気な矢沢永吉モノ。
 些細なことではある。
 でも、ある人のためにイヤな思いをした自分にとっては、そんな些細なことが、いつもの数倍の嬉しさになって還ってくる。
「わるい人」(人に、いい、わるい、なんてレッテルは貼れないけれども)は、「いい人」を照らす。

 背中の痛みと、「わるい人」(なんて言えないんだけど)が、私の中でリンクした。
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