第241話 「博士の愛した数式」

文字数 809文字

 まだ読了はしていないが、非常に読み易く、読んでいて心が温かくなる良書だと思う。通勤途中の電車の中でウォークマンを聴きながら、家の風呂の中で防滴ラジオのFMを聴きながら読んでいる。

 80分しか記憶がもたない数学者が主人公である。
 これは映画化された作品だけれども、映画をぼくは見ていない。だから、「ああ、この場面はこういう光影のある部屋の中で、寺尾聡と高橋ひとみがこんな顔してこうしているんだろうな」と、想像が働いて面白い。(でも、ぼくの中ではこの主人公の役どころは小林薫なんだよナ、なぜか。)

 やはり数年前に映画化された、下田治美の「愛を乞うひと」もいい本だった。
「皆月」が芥川賞作品であることは、よくコメントを下さるNobさんが教えてくれるまで、知らなかった。文庫化されていたら読んでみたいが、映画を見てしまった後では、文字を追う喜びも半減するだろうか。本屋で手にとってページをめくってみるなかでの直感的なもので判断しようと思う。

 しかし文章というのは音楽と似ていて、ここにはこの言葉しか入らない、という必然の羅列のようなものが脈々と続くと、読んでいてとてもしっくり来る。
 モーツァルトのピアノ・コンチェルトばかり聴いているこの頃だけど、「うん、こうなったらこういくしかないよな、うん」という音符の必然性と、まったく似ている。

 つくり手が、自己欺瞞的な、どこかムリのある、本来そのつくり手のあるべき姿ではないままにつくり出されたアート的なものには、ぎこちないいびつさが隠しきれない。

 何か既に形どられてしまったものへ執心した表現より、自分の中へ中へ掘り下げられてそこからぶくぶくと泡立ってきた自然な気泡の羅列が、ほんとうにきれいだと思う。
 発現するにともなう苦しみは同じだとしても。
「博士の愛した数式」の作者の本は他に読んだことがないけれど、読んでみたいとは思う。

 それにしても、下田治美さんは元気なのだろうか…。
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