第268話 フクの生い立ち(3)

文字数 699文字

 生い立ち、ではないかもしれない。
 うちに来たフクのことを打ち込んでいるのだから。それは過去のことである。
 ぼくは「フクの生い立ち」というタイトルを打ち込むことで、読んで下さる方を欺いているのかもしれない。

 今はもう完全に朝なので、フクは活動モードに入っている。
 人間でもそうだけど、一緒に暮らすというのは大変なことだ。
 でも、ながく一緒に暮らすうちに、わかってくることがある。
「誤解して結婚して、理解して離婚する」のと似ている。

 気を取り直して、フクのことを書く。すみません。

 フクは初めてうちに来たその日、ずっとキャリーから出ず、夜中近くになって活動を始めた、と前回書いた。
 だが、翌日の朝ぼくが出勤して帰ってくるまで、タンスと壁の小さな隙間にず──っといたこと、これは大した忍耐力だと思わざるをえない。

 こんなに警戒されたら、こちらもはたらきかけてしまう。
 棒の先っちょにネズミのついたオモチャで、「ほ~ら、ほ~ら、何じゃコレ、何じゃ、コレ」と誘惑してみる。出ておいで。世界は素晴らしいよ、そんな狭いところ、いないで。

 フクをあやすぼくを見て、家人が笑い始めた。
「ミッちゃん、じょうず~」
 あなたにウケてどーすんだよ、と思いながらぼくはネズミのオモチャでフクをかどわかし続ける。「ほ~ら、ほぉ~ら。」

 フクが出てきた。ネズミのオモチャに、猫パンチし始めたのだ。
 嬉しかった。その後、どうなったのか記憶にないくらい、嬉しかった。

 その日から2年、今やフクは家のあるじと化している。
 フクは今、遊んで遊んでと言っているので、このブログもここで中断。
 いかにフクに牛耳られているか、想像を願いたい。
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