第141話 銀の指輪

文字数 1,007文字

 職場で仲良くしてもらっているS君から、指輪をもらった。
 同性から指輪をもらったのは初めてである。(異性からも、もらったことはないが。)
 らせん状の茎に葉がついている模様が、指輪をぐるりと囲んでいる。
 左手のくすり指だと結婚指輪になってしまうので、右手のくすり指にはめている。

 S君は、沖縄出身である。
 先日、沖縄の読谷村にあるチビチリガマでの悲劇を追ったドキュメンタリーをテレビで見た。
 米軍が攻めて来たら、捕らえられることなく自決せよ、という命が下っていたという。
 防空壕であるチビチリガマに避難していた人々の多くは、そのために死んでいった。
 自分の子どもを殺す母親。天皇陛下万歳、と言って自らの生命を絶った人たち。
 戦争のもたらした、底知れない悲しみ。

 そのチビチリガマで、死なないで生き延びた老婆の証言がメインに進められたテレビだった。

 沖縄は、虐げられた歴史を負っている。
 日本の為政者たちからも、見捨てられたも同様の歴史を負っている。
 本土の人々への扱いと、あきらかに違っていた。
「戦争のときの話だから」と、現代と一線を画してはならない。

 私の、芯のようなところで、どうしようもなく在るのが、「反戦」というものである。
 それは、私が今までほんとに懇意にしていた年長の人たちから、私の身体に、まったく違和感なく吸収されたものである。
 現在の日常生活、街の空気を吸ったり、メディアのニュースを見るにつけ、どうにも何かおかしい。
 おかしな時代に、無関心でありたくない。
「あんな事件は、自分のみぢかなことではない」と線引きをしたくない。
 なぜあんな殺人未遂が起きたのか、とか、その犯人、「悪い」人の身になって考えたい。
 もちろん、被害に遭った人の身にもなって考えたい。

「自分の身に起こったことではないから」と無関心になることは、さらに悪い社会を生み出す。

 戦争の悲惨さを後世に伝えることと、それはリンクすると思う。
 無関心であることが、無意識の罪悪であるように感じられてならない。

 S君は、カラオケなんかでも、人とのいさかいを拒む歌を好んで歌う。
 職場でもしっかりと自分を表現できる、素晴らしい青年である。
 もらった銀の指輪は、みごとに私の指にフィットして、髪を洗っても石鹸で手を洗っても、まったく私の指から抜けそうもない。

 沖縄に育ったS君とは、職場を離れても、よき友人としてつきあっていけると確信している。
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