第813話 通勤バスの中

文字数 757文字

 空いている隣りの席を、手のひらで軽度に叩いている4、50代の、たぶん正社員。
 指で何か重要な数えごとをしていたり、首をガクンと落胆したようにおとしたりしている。

 いつもヘッドフォンで、周囲にも聞こえる大音量で聴いている2、30代のワカモノ。片足で大きくリズムをとっているので、バタンバタンと足音が、バスの床を叩く。

 大変なんだろうなぁ。
 そう思うぼくは、そういう人の、たまたま近くに座っているから、自分がウトウトもできずに大変だから、大変と思うのだろうか。

 席はかなり空いているのに、必ず先頭の補助椅子に座っている人もいる。(これ、各停留所で降りる人にはけっこう迷惑なのだが)

 なんかイヤだな、こういう人間にはなりたくないな、みたいに思っていた自分もいた。
 けれど、ああ、「こういう人間、いるんだよな、うん、そしてぼくも、この人たちの中、同じバス、毎日、乗ってるんだよな」
 そう思えるようになってきた。
 人を、以前より、拒否しなくなってきた、ということか?(ウソつけ)

 だが、足でバンバンバンバンのリズムの音響、シャカシャカシャカシャカのヘドフォンから漏れる大きな音量は、ちょっと受け入れられない。

 もしもし、うるさいですよ。
 もしそう言えたとして、そう言ってしまう自分に、ぼくは、わからなくて、悲しくなるんだろう。

 もし、彼がシャカシャカをやめたら、ぼくは、「お、こいつ、言うこと聞いたゾ」みたいに思って、自分が優位に立ったみたいになって、「いいですよ、そんな、音、小さくしなくても」などとも言うのだろうか。

 で、またシャカシャカ始まっても、「いや、これは、オレが自分で彼に、そうしていいよ、と言ったのだ」と、自分に理由を見つけて、許容する、そういう人間なのだろうか、わたしは。

 ツカレタ。

 お疲れさまでした。
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