第763話 ガンダーラ?

文字数 852文字

 何回か、このブログにも書いている、土師政雄さんという数学者が、ぼくに話してくれた。
もう20年くらい前の話で、おぼろげの記憶である。土師さんの言葉そのものじゃないけれど、その話を聞いていて、今もぼくに残っている、その残り香を改めて言葉にして書いてみれば…

「かめくん、○○って国、知ってる? ぼくも行ったことはないんだけどね、どうも、あるらしいんだな。
 そこはね、レベルって言っちゃナンだけど、レベルが高い国なんだな、どうも。
 というのはね、みんな、とにかく笑顔であいさつするらしいのね。道なんか歩いてて、目が合ったりしたら。
 で、貧しいとか富んでいるとか、あんまり関係なくて、なんかみんな、元気で幸せそうみたいなんだな、ぼくも、詳しくは知らないんだけどね」

 だいたい、こういうことを、土師さんは話してくれていたと思う。
 へぇ、そうなんですかぁ、と、ぼくはいい加減に聞いてしまっていた。ぼくは当時「脱学校の会」を何だか中心的にやっていて、その月例会のおしらせを、土師さんの会社のコピー機でコピーしたりしていた。
 土師さんは、ぼくが100通くらいの封書に切手を貼ったりしている時、たまに、いろんな話をしてくれた。
 土師さんは当時予備校で講師をしていて、国語とか英語とか、いろんな講師との交流もあって、その講師の誰かから聞いた話として、話してくれたような気もする。

「かめくん、『ガロアの生涯』って本、読んだことある?」と、会ってまもない頃、話をしていて、訊いてきた土師さんである。
 パトリック・ガロアという人は、数学の公式か何かを考えた人で、しかし、「負けると分かっていて、決闘を引き受けて、死んでいった」人である。
 ぼくは公式なんか考えつかないけれど、その後の生き方を、なんとなく暗示してくれていたような。

 その土師さんが、「○○」という国のことを教えてくれて、20年後の今、とても行きたいと思ってしまう。
 だがその○○という国の名前を、ぼくは覚えていない。確かめたい土師さんも、もう亡くなってしまっている。
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