第871話 会社

文字数 741文字

 むかし予備校でバイトしていた頃、塾の講師もバイトで掛け持ちしていて、1日の、ずいぶん長い間、ネクタイを首に締めていた。
 父のお下がりの背広なんか着て、最初のうちは、「これでオレもシャカイジンだ」と、まるでオトナになったようで、ネクタイも、心地良く締めていた。

 だが、ネクタイは、自分で自分の首を締めているものだった。次第にぼくは耐えられなくなってしまい、予備校も塾も辞めた。

 ゴミ収集車の、助手のバイトもやった。その頃はぼくも結婚していて、子どもの通う保育園が、家の近所にあった。
 ある朝、ゴミを、エッホエッホと収集車へ投入していると、子どもの通う保育園の先生の姿が、何10m先かに見えた。先生は、子どもらを引率し、近所を散歩しているようだった。ぼくの子どもの組、ぼくの子どもも、その一群に、入っていたはずだった。

 ぼくは、自分の姿を、子どもの友達たちに、見られたくなかった。
 さっさとゴミを投入し終え、身を低くして、顔が見られないように、助手席に座った。その一群の横を、ぼくを乗せたゴミ収集車は通って、定められた次のゴミ収集場へ向かった。

 ゴミ収集車の仕事に、ネクタイは必要なかった。

 スーパーマーケットの正社員をやっていた頃は、妻が子どもをベビーカーに乗せて、ぼくの働く店に、よく買い物に来た。
 パートのおばさんや店長からあやされて、子どもはウキャウキャ笑い、ぼくはなんとなく幸せな気持ちになったりした。

 この文章、何が云いたいのか。
 ぼくは、会社=企業に、雇われながら、生きてきた、今も、だ。
 チャンと離婚もして、チャンと歳も取った。何が云いたいのか。
 会社、企業、ムリがある、自分に。で、何が云いたいのか。

 そこから脱した生き方を。そこから脱した、生き方を。
 自分に云う。
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