第269話 セックスとプラトニック

文字数 859文字

 うちがセックスレスであることは以前記したけれども、それはそれでOKではないか、と、3年の歳月の中で感じている。

 7年ほど前、ぼくは早稲田大学近くのたまり場的スペースで、ある女性と知り合った。話しているうちに意気投合して、彼女とアドレス交換して、どちらからともなく2度目に会ったその夜、ぼくたちはラブホテルに行ったのだった。こんな事の運びようは、初めての経験だった。

 ぼくは当時、そういう行為をする相手とは、いわば結婚するべきだと考えていた。いや、考えるというより、そういうものだと心が訴えていた。結婚に至るかどうかはともあれ、そういう行為をする相手は、ぼくにとってとにかく重要人物であった。
 それでぼくは彼女との関係を、これから大切にしなければ、と思っていた。
 だが、結論からいうと、ただ彼女は、ぼくとエッチをしたかっただけであった。
 その旨の書かれた簡略な手紙が届いたとき、笑い事ではないはずなのに、ぼくは笑った。やられた!と思った。不思議に、痛快、という言葉しか、自分にフィットしない感覚に陥った。

「ただ、あなたとセックスをしたかっただけ。」
 ぼくはほんとうに言葉を失い、返す言葉を探すどころではなかった。これ程、説得力のある言葉は、聖書にも見い出したことがなかった(無宗教だけど)。
 で、すがすがしく彼女との交際を終えた。

 ラブホテルでその行為をしていた自分が抱えていた葛藤、矛盾、身体と心のスレ違うさまを、つくづく考える。
「このひとを、大切にしたい」という思いから、セックスという行為は、あまりにも乖離しすぎていた。このひとをだいじにしたいと思えば思うほど、自分の今行なっているセックスという行為が、醜悪なものに感じられてならなかった。

 以来、エッチ的な行為をするとき、ぼくはいつも考えてしまう。これは、何なんだ、と。
 身体だけ愛することが、できれば、と思うのだが。
 今一緒に暮らしている彼女も、同じように考えているようだ。
 そして、それでOKなのではないか、と、半分本気で思っている自分が、ぼんやり、いる。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み