第412話 レジを待つ間に

文字数 836文字

 6台ある、某スーパーのレジ。お昼。かきいれどき。6台とも、フルオープン。客がずらりと並んでいる。
 うち、1台のレジを担当する某嬢。他の5台の人たちと比し、なんとも緩慢な動作。ゆっくりゆっくり商品をとおしている。彼女は、けっこうベテランなのだが、いつもあんな調子である。

 客も知っていて、彼女のレジには好んで並ぼうとはしない。あるいは、他のレジが絶望的に混んでいて、やむなく彼女のレジに並んで、イライラすることを強いられる。
 ぼくは、この店の従業員間の人間関係をおもう。
「まったく、○さんは…。」「私たちより、全然働いていないんだもの。」「それで同じ給料なんだものね。」
 客からの評判もよろしくないだろうとおもわれる。

 だが、それでいいのだ。それは、彼女の性格なのだ。たぶん、おっとりしているのだ。のんびり屋さんなんだ。
 で、他の従業員は、ともかく手が早いのだ。そして、テキパキとものごとをこなせる性格なのだ。
 のんびりした性格の従業員は、その性にしたがってそういう仕事をし、テキパキした性格の従業員は、その性にしたがってそういう仕事をしているだけだ。
 そこから、はじまっているだけなのだ。

 何も、いいんだ、どうせ仕事なんだから、のんびりやろうと、テキパキやろうと。
 彼女に文句を言うのなら、従業員諸氏、あなた達ものんびりやればいいのだ。テキパキやるのを畢竟選んでいるのはあなた方自身なのだから、それがイヤなら、あなた方も文句を言わず、のんびりやればいい。あなた方の、全く、自由なんだ。

 仕事に行くこともできれば行かないこともできる。生きるのがイヤなら、死ぬこともできる。個人個人の黄金権。
 さて、仕事なんて、たいしたことではない。適当でいいんだよ、適当で。真面目にやらないからって、命を獲られるわけでもないだろう。
 と、自分に言い聞かす。どうせ、行ってしまえばマジメにやっちゃうんだから。せめて、心くらい、無責任でありたい。
 と、ぼくは、自分の中でバランスをとっている。
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