第264話 フクの生い立ち(2)
文字数 1,082文字
フクは今日もフローリングの床の上にお股をおっぴろげて、完全無防備、腹を見せて寝ている。
2年前の6月の終わり。
家に来たフクは、キャリーの中から出ようとしなかった。
もう夏のような、暑い日だった。食器に入れた水も飲まず、ただただジーッと無言でキャリーの中に引きこもっていた。
「あら、可愛い。」
家人が、通信制大学のスクーリングから帰ってきて、フクを見て言う。
「でもずっと出てこないんだ、水も飲まないで…。こんな暑いのに。」
「警戒してるのよ」
警戒されると、なんとなくぼくらも警戒する。フクの視線を感じながら、なるべく自然に夕食を摂った。
フクが突然キャリーから飛び出したのは、家に来てから既に8時間は経過していたと思う。居間から、洗濯機の前に置いてある猫用トイレに向かったのだ。
そして居間にいたぼくたち人間に聞こえてきたのは、「うんご~。うんご~」という、フクの声だった。それからすぐにまたフクはキャリーにサササと戻っていった。
「なんで、トイレがここにあるって分かったんだろう。」
不思議だった。猫がうんちをする時、「うんご~、うんご~」と声を発するのも不思議だった。
ぼくと家人が寝室に入り、フクは居間にひとり残された。それからである、フクがキャリーから出て、ぼくたちの布団を経由し、タンスを昇ってカーテンレールの上を歩き出したのは。
その行動の間、フクはずっとニャアニャアニャアニャア言い続けていた。さらにテレビの裏側へとフクは進行した。マズイ。いくら鉄筋鉄骨マンションでも、フクの声は大きい。お隣りさんに迷惑がかかる。
ぼくは「フク!」とテレビの裏側にいるフクに言った。フクは、「フ~ッ!」とぼくを見ながら威嚇した。「フ~ッ、じゃないでしょ!」噛まれるのを覚悟でそう言いながらフクを抱っこしたら、「ニャ」と返事したので、拍子抜けした。
だがフクは、翌日もずっと引きこもっていた。キャットフードも食べず、水も飲まずにいた、と家人が言う。引きこもる場所は、キャリーではなく、壁とタンスの隙間にあった、6センチほどの空間だった。ぼくが仕事に出掛ける時、フクはそこにいて、ぼくが仕事から帰ってきても、そこにいた。家人が声をかけても、フクは「フ~ッ!」と威嚇していたらしい。
─── うまくやっていけるのだろうか。
不安ばかりが募った。ニートとか引きこもりとか、人間がそうなる気持ちは分かるつもりだった。でも、猫という存在は、ぼくにとってほとんど未知のものだった。
「ワンコがいいな。」家人がつぶやいた。
猫との共同生活、ムリなんじゃないか。後悔をした一瞬があった。
2年前の6月の終わり。
家に来たフクは、キャリーの中から出ようとしなかった。
もう夏のような、暑い日だった。食器に入れた水も飲まず、ただただジーッと無言でキャリーの中に引きこもっていた。
「あら、可愛い。」
家人が、通信制大学のスクーリングから帰ってきて、フクを見て言う。
「でもずっと出てこないんだ、水も飲まないで…。こんな暑いのに。」
「警戒してるのよ」
警戒されると、なんとなくぼくらも警戒する。フクの視線を感じながら、なるべく自然に夕食を摂った。
フクが突然キャリーから飛び出したのは、家に来てから既に8時間は経過していたと思う。居間から、洗濯機の前に置いてある猫用トイレに向かったのだ。
そして居間にいたぼくたち人間に聞こえてきたのは、「うんご~。うんご~」という、フクの声だった。それからすぐにまたフクはキャリーにサササと戻っていった。
「なんで、トイレがここにあるって分かったんだろう。」
不思議だった。猫がうんちをする時、「うんご~、うんご~」と声を発するのも不思議だった。
ぼくと家人が寝室に入り、フクは居間にひとり残された。それからである、フクがキャリーから出て、ぼくたちの布団を経由し、タンスを昇ってカーテンレールの上を歩き出したのは。
その行動の間、フクはずっとニャアニャアニャアニャア言い続けていた。さらにテレビの裏側へとフクは進行した。マズイ。いくら鉄筋鉄骨マンションでも、フクの声は大きい。お隣りさんに迷惑がかかる。
ぼくは「フク!」とテレビの裏側にいるフクに言った。フクは、「フ~ッ!」とぼくを見ながら威嚇した。「フ~ッ、じゃないでしょ!」噛まれるのを覚悟でそう言いながらフクを抱っこしたら、「ニャ」と返事したので、拍子抜けした。
だがフクは、翌日もずっと引きこもっていた。キャットフードも食べず、水も飲まずにいた、と家人が言う。引きこもる場所は、キャリーではなく、壁とタンスの隙間にあった、6センチほどの空間だった。ぼくが仕事に出掛ける時、フクはそこにいて、ぼくが仕事から帰ってきても、そこにいた。家人が声をかけても、フクは「フ~ッ!」と威嚇していたらしい。
─── うまくやっていけるのだろうか。
不安ばかりが募った。ニートとか引きこもりとか、人間がそうなる気持ちは分かるつもりだった。でも、猫という存在は、ぼくにとってほとんど未知のものだった。
「ワンコがいいな。」家人がつぶやいた。
猫との共同生活、ムリなんじゃないか。後悔をした一瞬があった。