第330話 「飛べない鳥と飛ばない鳥」

文字数 473文字

 このアルバム、16の時に、たしか銀座の中古レコード屋で買った。ソニー・ビルだかどこだったか。やはり廃盤になっていた「陽のあたる翼」もそこで買った。探し求めていた2枚のLP、見つけた時の嬉しさといったら!

 もう25年近く前のこと。インターネットなんかもちろんなかった。自分の足で探すしかなかった。日曜日の、初夏の陽射しの強さと、なんとなくのんびりしていた街の空気を覚えている。
 
 ぼくは自分を飛ばない鳥だと思い、飛べない鳥の人たちをナナメから見ていたような、ちょっとヒネたガキだった。
 下田さんの唄に現在も通じている淋しさ、ひとりひとりでしか結局は生きれないかなしさのようなもの。きれいなメロディーと詩が、これだけそのまま現実になっている音楽を、ぼくは下田逸郎以外に知らない。

 血となり肉となる、というよりも、身体で感じる以上の、心根に、まったく異和感入ってくる音楽だったのだ。
 もはや下田さんの音楽のない世界というのは、ちょっと考えられない。10代の頃は、いいのだろうか、こんなにこの人の唄にノメリ込んで、と自分を不安視したこともあったけれど。
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