第736話 沖縄の思い出

文字数 826文字

 15歳の頃、沖縄に行った。
 ぼくは2人兄弟で、15歳上の兄とふたりで、初めて沖縄に行ったのだ。ぼくは高校に行かず、セブンイレブンで毎日働いていた。気分は社会人だった。
 兄からしてみれば、結婚する前年だった。だから、弟と旅行をするのは、これが最初で最後という、プレゼントのような意味合いもあったと思う。

 ヒコーキに初めて乗った。着陸した時、機内の乗客ほとんど全員が、拍手をしていたのを覚えている。確かに、落ちなかった。
 日本旅行の「赤い風船」のツアーだった。フリータイムばかりの、たしか2泊3日だったと思う。
 ただ、守霊の門、ひめゆりの塔だけは、ツアーの一環として、バスで回った記憶がある。
 バスガイドのお姉さんが、たまたまぼくの座る席のそばで何かを落とし、ぼくが拾って渡すと、「オンナには優しいんだからナー」と兄に笑われた。

 朝食だか夕食で、味噌汁のフタが開かず、兄とぼくが困っていたら、隣りに座っていた知らない人が、「ちょっとズラすと開きますよ」というふうに、教えてくれた。
 兄が、「あ、ありがとうございます。飲むのを断念しようとしていたところです」などと言って笑って応対していたのも覚えている。

「ムーンビーチ」のホテルに泊まった。兄は日陰にいたけれど、ぼくは思いっきり太陽に当たって甲羅干しをしていた。日焼け(ほんとに焼けた)で、夜、寝るのが痛かった。
 そのホテルから、ぼくは両親にハガキを送った。『お父さん、お母さん、お元気ですか。登校拒否をして、迷惑かけました。今まで育ててくれて、ほんとうにありがとうございます』というような、妙に素直に書けたハガキだったことを覚えている。

 なぜ、こんなことを、今、思い出したのか。
 あさってあたり、実家に行く予定があるのと、毎日の暑さのせいだろう。
 15歳だったぼくは40になり、兄も両親も、あれから25年、歳を重ねたわけである。
 明日も、暑くなるんだろうナ。父の好きな「うなぎ」は、やっぱり買っていこう。
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