第536話 人が信じられないとはどういうことだ

文字数 1,025文字

 仕事してたら、ひとりの上司が来た。
「おもろくねぇ、会社。」
 Tさんはぼくに言う。
「ぼくもー!」こどもみたいにぼくも同意する。「何がって、人が信じられないことですよ。こういう環境で、面白いことを見つけ出すのは難しい…」
 Tさんは、「Aさん(ボス)、組合で○×委員と×○委員やっとるんよ。上を狙ってて、下のモンのことなんかどーでもええ感じや。」
「そういうのって、分かるから不思議ッスよね、人って。こいつ、自分のことしか考えてないって…。Aさん、期間従業員のこと、人間と見てませんよ。」
「おれも人間と見られとらん。」

 何をもって「人間」というか、よく分からないけれど、ぼくにとって天敵のようなボスである。
 自分の出世のことだけ考えるのもニンゲンなら、出世のことを考えないのもニンゲンだ。
 このボスとぼくは、ほとんど話をしたことがない。まわりの人に聞けば、ほとんどの期間従業員が、このボスと話したことがない。これほど、作業者と話をしないボスは、初めてである。ひと言ふた言だけでも、声をかけあうだけで、全然違うのに。

 たまに、ロボットのように感じる。また、そういう風貌もしている。上からの言うことを聞き…ああ、やめよう。

 しかし、マズイな、と思うのは、この企業がもはや世界的に「成功を収めた」企業になっていて、この企業で上に立っている人間のことを、模範して、また「成功したい」と考える企業、人間が増えていくことである。それは、たまらない。

 うちのボスは、今のところ間違いなく「上」に行きそうである。

 しかし、いいボスもいるのだ。そういうボスは、派遣社員、期間従業員、正社員、そんな区別・サベツなく、「一緒に働いている」という意識を、ぼくらに持たす。気軽に、コミュニケーションがとれる。何か「言う」ことが、とてもできづらい職場、モノづくりの現場では特に、よろしくない。不良品が流出しても、さもありなんである。だって自分の出世がだいじ、上の言うことをきいて、それで不良品が客に渡ったって、てめえのせいじゃ、ないからな。

 そう、客に迷惑かかったって、誰も痛みなんか感じないんだよ。
「会社」のせいにできる。そういうシステムが、みごとに出来上がってる。

 けっこう多くの人が、出世したがってるように見える。
 一緒に働く「仲間」なんか、嘘である。蹴落とせ、蹴落とせ。
 よくまぁ、やってられる。

 でも、ありがたいよ。これも、ニンゲンの姿なんだから。見せてくれて、ありがとう…
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