第168話 子どもの頃の思い出

文字数 767文字

 おうちが大好きな子だった。
 母方の祖母と母と父、兄、僕の5人家族。
 といってお祖母ちゃんっ子というのでもなく、ひとりで絵を書いたりひとりでオモチャで遊ぶのが好きだった。
 幼なじみのカズエちゃん、近所のクリーニング屋のミノルくんと家の中で一緒に遊ぶことが、たまにあった。
 幼稚園に入る前にいた、ふたりだけのお友達。

 初恋は、やはり幼なじみのカズエちゃんだったと思う。なにしろ、初めての「異性」である。
 よく笑う子で、つられて僕も笑っているだけのような関係だったけど、僕はカズエちゃんが好きだったと思う。
 ミノルくんを、ちょっとライバル視したりした時もあった。(子どもなりに、ありますね、いろいろ。)その後まもなくミノルくんは引っ越してしまった。

 カズエちゃんと僕は大人になり、ほとんど同じ時期にそれぞれ違う相手と結婚した。そしてカズエちゃんも僕も離婚した。
 子どもの頃、時間はもっとゆっくり流れていたように思う。
 いや、早かったのだけど、ひとつひとつの事柄が鮮明なので、そう感じる、と書いたほうが正確か。

 子どもの頃、吸っていた空気。まわりにいた、近所の酒屋のおばさん、おじさん、お祭りの時の根拠のないときめき。
 踏んでいたアスファルトも、家の並ぶ立ちなみも、なんだか今よりのんびりしていたように思う。
 ひとつひとつが、チャンとそこに根づいていたように思う。具体的に何がどう、というわけはないのだけど。

 1970年代前後、時代は学生運動やら安保闘争やら、やっぱりいろいろあったのだろうけど、まだ民衆、市民がその時代とともに生きていたように思える。
 いつのまにか、時代は「勝手に」過ぎ、人は「勝手に」生きるようになったように思える。僕が勝手に生きているからだろうか。
 うまく言えないけれど、どこにも向かっていないような2006年、初冬。
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