第427話 頭の中の音楽。家に帰って。

文字数 1,101文字

 1日、400台? おーんなじ作業やってりゃ、頭もおかしくなるよ。
 単純反復作業をする手足のてっぺんに付いてる頭の中は、音楽と妄想の反復だ。

 最近は…、
 もっぱら、ブルース・スプリングスティーンの「裏通り」。LP「明日なき暴走」の、A面の最後の曲。代表曲である「明日なき暴走」より好きである。ピアノがイイのだ。

 次にかかる曲は、モーツァルトの「ファゴット協奏曲」の第二楽章。ファゴットの、ノーテンキなパッパラパーさがイイ。春の陽だまりの森に続く道を、黄色い蝶々とふたりで、なーんの懊悩もなく歩いていくのだ。

 大体、この「裏通り」と「ファゴット協奏曲」の第二楽章で午前中が終わる。

 昼メシで、仲良しの人たちとゲラゲラ笑って蕎麦なんかを食べて、休憩所にひとり戻って、しんみりタバコを吸ったりする。

 午後。なるべく「無」になろうとする。何も考えない。何も考えない。何も考えない…でも、考えてる。
 ライン外の人がぼくのそばに来た時、どんな話をしようか、と。

 時間が過ぎる、時間が過ぎる、時間が過ぎる。救いのように、時間が過ぎる。
 終業。
 寝不足と、へらへらした頭でバスターミナルに向かい、目的地(駅だ)に着くはずのバスに乗る。
 駅に着いて、次の目的地(これも駅だ)へ向かう電車に乗る。その駅に着いたら降りる。自宅という目的地へ向かう。途中、魚屋なんかに寄る。

 家に着いて、お米を研いだりする。風呂に入ったりする。猫と遊んだりする。パソコンに向かったりする。布団に転がって本を読んだりする。
 家人としゃべったりする。
「いやー、昨日はよく泣いたよ。」
「なんで?」
「5年前のテロの番組。テレビ見て2時間も泣き続けたのなんか、初めてだった。」

「そんなこといったら、原爆で亡くなった人はどうなるの?」
「それとは違う。ぼくらはあの時、テレビで見ていたんだ。あの旅客機が、あのビルに突っ込むのを。ぼくらは、旅客機がビルに突っ込むのを見ていた。まるで、ただ旅客機がビルに突っ込むだけだった。でもあのビルの中には2000人か、人がいたんだ。自分がもしあのビルの中にいたら、って考えた。歩けない人を見捨てて、助かった人。見捨てて、死んだ人。見捨てないで助かった人、見捨てないで死んだ人。見捨てて助かった人は、『私は臆病者です』とインタビューに答えていたけど、それは違うよね。」
「ミッちゃんは、助けようとすると思う。わたしは、見捨ててひとりで逃げる途中で、瓦礫の下敷きになって死ぬと思う(笑)」
「どうなるか、わからんよ。」
 来たるべき東海大地震に話が及ぶ。近いうちに、必ず来る。ぜんぶ、崩れる。

 ぼくらはどこに向かっているのだろう?
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み