第420話 象徴するもの

文字数 1,266文字

「さて、きみは、天皇制には、そもそも反対の立場だったね?」
「できれば、なくしたほうが、いいと思いますね。」
「なぜ?」
「いらないですもん。」

「しかし、必要だとする人が多いから、ずっとあるのだろう? きみみたいな恩知らずが、いらない、と言う。必要だとする人の気持ちを、きみは切り捨てる。天皇制というのは、日本の象徴であり、自然の象徴であり、なくてはならないものなのだ。あって、然るべきものなのだ。敬うべきものなのだ。日本の、心なのだぞ。」

「何をおっしゃる、国の象徴は、そこに生きてる人たちそのものではないですか。民が、なくては、天皇制だって、ないんですよ。制度を敬って、何になる。
その民にしたって、天皇制なんかどーでもいいものになってると思います。少なくとも、若い人たちには、どーでもいいものになっているのではないですか。だって、ただあるだけですもん。ムダです。なくなっても、何にも困らない。」

「歴史を知らない、知識のない、無知な人間だな、きみは。なくなってしまうなんて、あな恐ろしい。この国が、もはや滅びるときだよ、それは。そんなこと、軽々しく口にするもんじゃない。若い人たちだって、天皇制を必要とする者がたくさんいる。きみが、知らないだけだ。」

「人が生きることは、ムダではありません。ぼくは、制度がムダだと言っているのです。ああ、若い人たち! その制度を受け継ぐべく赤ん坊が、最近生まれたみたいですが、もう、どうでもいいではないですか。そう、もう、どうでもいいのに、どうでもよくなくさせるのが、制度というものです。ああ、まったく、どうでもいい。」

「何が言いたいのか、分からないのだがね、きみ。」

「知識がないので、感じるままを言いましょうか。今回の男児出産は、茶番劇です。女/男の、ばかばかしい性差別。そして、ああ皇族に生まれていれば、もう将来は保障されるんだ、と、憧憬を抱かせる、民の心のスキマ。ああ生まれた所が違うだけで、こんなに違うんだ、と諦念を植え付けさす。そう、もう、こうなってるんだから、仕方がない、と、従順なるあきらめの精神の、養い。
おとなしい民族になるわけですよ、『もう、こうなってるんだからしょーがない』と、あきらめることだけに長ける人間が増長するわけですよ、その意味で、確かに日本の象徴です、素晴らしい。」

「は。これだから困るよ、わからない、知性のない人間は。」

「はい、ぼくは、感じることしかできません。この制度、なくしたほうがいい。あって、あまり、いいことが、起こるとは思えない。いや、あってもなくても同じなら、制度がですよ、なら、ないほうがいい。だって、なくたって、ぼくら、ご飯食べれますもん。うんこだって出せますもん。何の支障もない。」

「品のない人間、日本の心、四季の移り変わり、日本が日本たる象徴もわからない、それをわからない人間、ああ、嘆かわしい。きみは、動物以下だね。」
「ええ、ぼくは、灰皿にはなれない。思想なんて、トイレットペーパーにもなれない。でも、だから、感じることができる気が、するんですよ。」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み