第320話 フクの労苦

文字数 1,014文字

 今フクは寝ている。ご飯を食べた後だから。

 ぼくが仕事から帰宅すると、まずご飯の催促。フクの食器にキャットフードを袋からザザザと盛る。約70g。
 感極まったフクの長い尻尾は、この時ハテナマークのような形になっていて、ブルブルブルブル小刻みに震えている。喉は、ブーブーブーブー鳴っている。

 待望のご飯をもらえる喜びのためか、最初にフクは「ガッ」と食器に顔を突っ込み、そして首を振る。口に入っていたキャットフードの2、3粒が飛ぶ。するとフクは、飛んだ2、3粒を探す。ダイニングキッチンのテーブルの上でこれをやると、その粒が床の上に落ちる。フクはテーブルを降りて、律儀にその2、3粒を探し当て、食べる。
 それから本格的に食器の中のフードを、こぼさないように食べ始める。目は閉じられている。至福の時なのだ。カリカリ、カリカリと音がする。
 しかし全部食べるわけではない。半分くらい、残す。あとでまた食べるのだ。

 満足したフクは顔を洗い、毛づくろいをし、フローリングの床の上にゆっくり横になる。だんだん目が閉じられていく。そして壁に沿ってまっすぐ寝そべり、ほとんど仰向けになってお股を開いて眠り始めるのだ。

 よく見ると、薄目を開けている。そしてその目の内側、つまり鼻側のほうから、ググググッと、白い膜のようなものが出てきて、フクの目の中はその白い膜で覆われる。
 最初見た時、なんだこれは、と思ったが、猫の本によると「就寝中に外敵に襲われても、目をやられないように保護するための膜」なのだそうだ。
 また、フクは高い所で寝るのも好きである。これも、高い場所なら外敵に襲われない、という、フクの祖先から脈々と伝わる遺伝子の教えによるものらしい。

 約1時間睡眠を摂ったフクは、ニャオン、と独り言を言いながら2回目の食事に向かう。これは10秒くらいで終わり、再び玄関あたりで眠り始める。
 今度目が覚めた時は、「遊んで」の催促である。
 しかし、ほんとうにフクは、寝る・食べる・遊ぶを基軸に、生活を回している。朝は窓の外を眺め、「外敵」が来ないか監視しているし、室内のパトロールにも熱心だが、基本はとにかく寝・食・遊、なのだ。

 フクにはフクにしか分からない苦労もあるはずなのだが。
 今のところ、ぼくには、「遊んでくれないのかなぁ」というフクの目線。彼の遊び心が満たされないことが、フクの労苦のように思える。

 そう、世の中にはいろんな種類の労苦があるのだ。
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