第29話 猫の話

文字数 820文字

 わが家には、一匹、白猫がいる。正確には、後頭部に4本だけ、茶色い毛が生えている。でも、本人もこの事実を知らないはずである。
 ダンボールの爪とぎ(売ってるんですね)で、ガリガリやるのが好きである。キャットタワーに巻き付いている麻の縄を、ガリガリやるのも好きである。
 突然ひとりで走り出し、駆け巡っている時もある。

 だが基本的に、こいつは寝ている。
 私が出掛ける時、「行ってくるね」と声を掛ける。すると奴は、「ニャア」と言う。ちょっと淋しげに。
 帰宅すると、必ず玄関マットの上でおすわりしている。私がマンションの階段を上ってくる段階で、すでに奴は察知しているらしい。

 フクが来て、もうすぐ1年になる。
 最初はどうなるかと思った。うちに来て、2日位、奴はタンスと壁のせまーい所にずっといて、まったく出てこなかったのだ。
 私がのぞくと、「フーッ!!」と怒っていた。

 それが今はどうだ。しっかり、家のヌシである。
 私のパソコンの軟らかい椅子が気に入ったらしく、そこでよく寝ている。
 仕方なく私はダイニングキッチンのテーブルの固い椅子に座ってパソコンをする。

 居間の座椅子もお気に入りで、そこでもよく寝ている。
 人間のように、背もたれに上半身をもたれて寝ている時もある。
 私も家人も、何も言えない。

 こやつは、不思議な猫である。
 甘えん坊なくせに、一定の距離をおいて人間とつきあっているフシがある。
 冬も、ひざの上なんかに乗ってこなかった。
 ナデナデされるのは好きなくせに、抱っこはあまり好きではないらしい。
 ブラシをしたり、爪を切ろうとしたり、肉球の間の毛を切ろうとすると、ガッと噛みついてくる。
 そのくせ、ブーブーブーブー喉を鳴らして甘えてくる。

「コメット」という、キラキラした柔らかい小さな球のオモチャが好きである。
 投げると、一目散に追いかける。で、くわえたまま持ってきたりする。
 なんだかんだ、可愛い。
 長生きしてくれよ。オレも生きるから。
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