第775話 役割分担

文字数 715文字

 猫は、いや、うちの福は、人をよく見ている。
 ぼくが甘やかすことが得意であることを知っている。
 福は、「こいつ(ぼく)は、自分の言いなりになる」ことを知っている。
 福がおんもに行きたい時、ぼくは玄関のドアを開ける。
 福がご飯が欲しい時、ぼくはご飯皿にキャットフードを注ぐ。

 だが、家人は、福の言いなりにならない。
 福が「おんも行きたい」の「ニャア」を言っても、ドアを開けない。防犯の由もある。
「ご飯ちょうだい」という意味の「ニャア」を発しても、「さっきあげたでしょ」と家人は無視をする。

 すると、福は福で、かんがえる。
「ああ、このヒトに言っても、ムリなんだ…」
 そして福はぼくに求める。
「玄関のドアを開ける手」を、「ご飯皿にキャットフードを注ぐ手」を。
 ぼくは、たまたま、その手を所有しているだけである。

 さらに福は、召使いのようなぼくよりも、「我」をもつ家人に、スリスリ媚を売って、「○ちゃん、ダイスキ!」と言わんばかりに、愛くるしい目で家人を見上げる。
 ぼくを見る福の目は、「おまえ、言うこと聞け」である。

 いつからこうなってしまったのだろう?
 犬は、同居する家族に優劣をつけるというが、猫(福)だって、かなりのものである。
「女はね、猫と同じですよ、追いかけたら、逃げます」と、友達だった小児科医が言っていたが…

 分業システム。効率的である。猫は知っているのか、それを。かなりリアリストである。
 そして猫は、自分がイチバンと思っている風情、ここが根本的に犬と違う。
 そういう関係を求めて、ぼくは猫を飼おうと思った。
 本望である。
 なんだかんだ、可愛いのだ。カミサマが、そういう容姿をつくったとしたら、カミサマも罪なヤツである。
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