第421話 漱石の「こころ」

文字数 775文字

 何度も読み返した、本である。
 だが、頭の悪いぼくは、内容を覚えていないのだ。
「先生」が自殺するような内容だったことは、覚えている。ほんとかな。
 ただぼくに残っているのは、海辺の、夏、先生と会うということ。そこから、あの物語が始まっていった。と思う。
 ぼくはただ、引き込まれて読んでいた。何に?あの文章のもつ、あの言葉をたどる行為の中で、自分が、引き込まれていった。

 文章というものを、ぼくも書いていて思うのだけど、「あ、これは、すっごい感じ! あとで、ゼッタイ書いてやろ。」なんて、その時思った事柄、実は全く書けない。もう、その時点で、ヤラセが出来上がってんだ。で、自然淘汰される。

 なーんも下心なく、じーっと生きてて、そこからしぜーんに、コトン!って落ちる感覚が、とてもいい。
 漱石の「こころ」で、ぼくの中に落ちたのが、あの夏の匂い、海、人、先生の奥さん、髭(なぜ?)なのだ。
 だからぼくは「こころ」を何も分かっていないし、「読んだ」と言うことも、はばかれるようなものだ。

 あまり映画も観ないのだけど、「羊たちの沈黙」には、引き込まれた。だが、やはりストーリーは、覚えていない。しかし引き込まれた。その感覚だけは確かに残っている。あの犯人が、とてつもない手段で逃亡?していくのだ。

 ドストエフスキー、然り、ぼくは何もわかっていないのだと思う。ただ、あの世界に引き込まれた。引き込まれて、その時、ぼくは確かに、楽しかった。

 音楽では、最近スプリングスティーンの「裏通り」が、心地よいけたたましさをもって頭によく鳴っている。ピアノから始まって、鼓動のようなベース、ドラムにエレキギターがからみついて、健気なエレクトーンが拍子づく。そして、わけもわからず昂揚していく歌声に、わけわからず感動してしまうのはなぜなのだろう。

 ムンクの…、もう、やめようか。
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