第888話 毒と薬

文字数 792文字

 今日の朝日新聞の書評欄に、村上春樹の新刊が紹介されていた。
 村上春樹は、健康的な作家だ。ボストンマラソンで走ったり、毎日とにかく走って汗を流していた。
 その新刊は、そういう村上春樹の自伝的なものらしい。
 その中で、「文学は、毒を出すもの。でも、その毒をもつ自分、その身体は、せめて毒を持たないでいたい。作家活動を少しでも長くするためにも、ぼくは走りたいのだ」(かなり、ぼくの主観の入ってる解釈)というようなことを、村上春樹は書いているらしい。

 書評者は、「こういう前向きな姿勢が、世界中で読まれる理由なのだろう」というようなことを書いていた。
 ぼくは今大江健三郎でいっぱいいっぱいだが、大江の書いたものと村上春樹の書いたもの、テーマは似ているように感じる。(村上春樹は、「海辺のカフカ」まで全部読んでいる)

 ただ違うのは、大江はとことん自分の世界を厳しく追求しているようなのに対し、村上春樹はけっこう妥協しているように、感じるところだ。
 大江の世界を知った以上、もう村上春樹を読めないようにも感じたりしている。

 考えてみれば、音楽も同じようなテーマをもった曲が多いし、本でもそうなのだ。「別れ」とか「戦争」とか、せつなさとか悲しさとか。恋とか愛とか。
 違いがあるなら、それは結局個人(作り手)が感じるところから、その表現方法が違っているだけなのだ。声であったり文体であったり、要するに、形だ。
 でも、その形は、まずその作り手が、「感じる」ところから、うまれている。

 同じ朝日新聞の「ひと」の欄では、フランスの歌手、「ジェーン・バーキン」が紹介されていた。
 ビルマの軍事政権に対し、反対する活動をしているらしい。
 さすが、セルジュ・ゲーンズブールの、元妻である。ジェーン・バーキンも、もう60歳である。

 毒があれば、その処方をしよう、とするのは、ヒトに埋め込まれた、本能なんだろうナ。
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