第815話 某佐〇急便の竹刀

文字数 748文字

 佐〇急便に20年以上勤めたSさんが言う。
「竹刀持ってるんですよ、『教育官』みたいな人が。だいぶ前、フォーカスされたでしょ。あ、知らないですか」

 新入社員研修だかで、そういう「教育」をする人は、竹刀を持ち、何に使うのか、そりゃ叩くためだわな、痛いだろうな凄く、そういう人がいる、そういう事実を、写真週刊誌「フォーカス」は記事にしたらしい。

「軍隊みたいですね」ぼくが言うと、「ほんと、そうですよ。軍隊。」Sさんが答える。
「フォーカスされてから、表向きは、そういうことをしなくなったようにしてますけどね。」

 意味あるのか? そんなシゴキ。

 何のためにそんなこと、そりゃ会社の。
 では会社の、何のため?
 利益。なるのかなぁ、利益に。

「声が枯れて、出なくなりましたよ。」
 そんな大声出させて、どうするのだろう。
「何のために…でも、そういうのがあって、今のSさんがいるんですよね、タメにはなってるんだ。」
「いや、ホハハハ、分かりません。」
 みたいにSさんは笑う。

 ぼくは20年も同じ会社に勤めたことはないし、実に分からない。

 ただ、ぼくの交友関係で、かなり仲良くなった人で、「柔道をやっていた(やっている)人、あるいはSさんのように、ちょっと常軌を逸しているような会社に勤め続けた人」、そういう人と、よくぼくは親しくなる。

 自分だったら、1日で逃げ出しちゃうような、柔道・竹刀の世界。

 おたがい、「自分にないもの」をもっている人に、吸引力、惹かれるのだろうか。
 ぼくは、逃げ、逃げ、逃げ。あらゆるものから、ぼくはきっと逃げてきているのに、柔道の厳しさ、竹刀の厳しさに耐えられる人と、まごうことなく親しくなる。

 勇敢なSさん。
 軟弱なぼくとの、仲良しの接点は、<どうしようもないですね、こういう自分> か。
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