第499話 福がやって来る

文字数 864文字

 トイレに入っていると、外で福が鳴く。「どこ行ったの? どこ行ったの?」
 で、ぼくはトイレのドアを2cmほど開ける。スキマから、福の顔が見える。
「あ、福、いた~!」
 すると福は、その棒のような前手をスキマに入れ、器用にドアを開け、トイレに入ってくるのである。

 ダイニングキッチンにあるデスクトップのパソコンの椅子に座ってぼくが画面に向かっている。すると、椅子の肘掛けに福が背伸びして両手をかけ、訴えかけてくるのだ。「ボクの椅子だよ! ボクの椅子だよ!」
 ぼくのパソコン用の椅子には、座布団が2枚ある。福は、ふかふかのものが大好きなのだ。
「あ、座る?はい、ど~じょ」ぼくは福に椅子を譲る。福はピョンと飛び乗り、まるくなって寝る。ぼくは福の乗った椅子を冷蔵庫の前まで転がす。ぼくはダイニングキッチン用に買ったテーブルの椅子、かたーい丸椅子をパソコンの前に移動して、座る。

 寝室にぼくが移動すると、しばらくしてから福も来る。ぼくの枕元におすわりして、そして言う、「遊んでよ、遊んでよ。」
 ぼくも布団の上におすわりして、タコ糸をひもとく。そしてぼくのまわりをぐるぐる回転させる。福の大好きな狩りの時間である。タコ糸を追って、福もぐるぐる回転する。が、たまに、正座しているぼくの足の裏に、福の鋭い爪が突き刺さるのだ。ぼくは苦痛に呻き、突っ伏す。しかし、獲物を追う時の福が、一番輝いた目をしているのだ。表情もりりしい。
 腕を差し出すと、重い猫キックをBan Banくらった。腕が傷だらけになり、したたかに血も滲む。
「お~強い、お~強い、狩りの名人なんだよねッ、福はすッごくすッごくうまいんだよね~」


「白猫で、オッド・アイは、飼い主に幸運と金運をもたらす、って言われているんだって。」
 職場で、ぼくはK君に言った。
「かめさん、もたらされたの?」K君が聞く。
「いや、たぶん、まだ2歳ちょっとだから…」
「あ、パワーが、まだ、ないんだ。」笑いながらK君が言った。

 いや、福は、充分すごいパワー持ってるよ。ただ、飼い主に、福ほどのパワーがないんだナ…
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