第638話 ものを見る眼は

文字数 873文字

 結局自分を映し出しているのである。
 どこかの国のあるじは、「美しい国づくり」を目指しているらしいが、美しさなんて、「コレが美しいというものです」などと、規定して言えるものではない。要するに、どこかの国のこのあるじは、自分の理想とする国づくりをしたいだけなのだ。そこに、民の意が反映される余地を持たないのは、今まで通りである。
 空虚な美辞麗句を用いて、何も言っていない言葉を発するこのあるじは、ただひたすらに自分の思い通りに為政しようと一直線である。
 怖いあるじである。

 また、どこかの国では、妙に頑迷そうなあるじが選ばれた。この国は好きだけど、このあるじは好きになれない。女性候補者の落選が残念である。
 どこかの国のあるじは戦争を泥水化させ、どこかの国のあるじは拉致をしながら、結局許されている。悪いことをしても罰を受けないというのは、不思議な世界だ。

「権力、握っちゃったもん勝ち」である。
 まだ、新あるじを認めたくない学生が反対運動している国には、何かエネルギーみたいなものがあるように思えて好感が持てる。投票率が80%以上などというのも、「美しい国」では起こりえないことだろう。

 さて、こうやって、何か批評的な文を書いていると、自分というものも、あぶり出しされてくる。
 ああ、「美しい」というものが、まるで1つのようにされて、それに勝手に向かわれるのはイヤだ…(個々を、もっと重んじたいとする自己)
 頑固さはあるていど必要だけど、偏執的な要素は含まれてはなるまい----(たぶん同じようにガンコさとこだわりを持っている自己がいるから、反発する自分)

 ものを見る眼の裏には、必ずその対象に引っ張り出されるようにして浮かんでくる「自我」が、ある。
 その自我を、だいじにしようとすることと、その自我をあぶり出ししてくれた、ありがたい対象。腹立たしい対象だって、ありがたいのだ。
「哲学」、「考える時間」、コドモもオトナも、まるで何の役にも立たないような、無為のような時間を過ごすことは、唐突に、ヘイワな世界をつくり出すんじゃないか、と不意に思った。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み