第250話 期間従業員日記(26)
文字数 1,717文字
しつこく書き続けてきた、インジェクタ問題。反対番(ぼくらが寝てる時にぼくらの職場で働いている人たち)とやり方が違うという、アレです。
些細なやり方の違いならOKだけど、インマニ工程には逆三角形R、逆三角形Sマークがそれぞれ2枚ずつ掲げられている工程である。(車両火災、排ガス規制等における重要な工程だと思って下さい)
エキスパート、チームリーダー、グループリーダー、センターリーダー(役職の名称。徐々にエラくなる、と思って下さい)にも、この、ぼくのやり方と反対番のやり方が違うことは言ってきた。だが、一向に改善されずじまいであることも、このブログで記してきた。
センターリーダーに言ってから、もう3週間は経つ。これで何の処置もされないなら、あとは課長か、とぼんやり思っていた。
本日。滅多に現場に留まらない課長が、ぼくの工程に来たのである。
ぼくの工程は、ホコリなんかをシャットアウトする意味合いで、ビニールハウスのような形状をした「小屋」の中にある。基本的にぼく1人がそこで作業している。
ぼくはいつものように作業していた。昨夜のW杯、日本代表の敗戦のショックで寝不足の頭を抱えながら。
そこに唐突に課長が入ってきた。あっ、課長だ(名前も知らない)。
すると、2秒ほどですぐに出て行った。
あ、行っちゃった。あぁ、インジェクタのこと……。
10秒以内に、また課長が入ってきた。チームリーダーのTさんも一緒だ。
あぁ、言わなくちゃ。滅多に、課長と話す機会なんかない。
「課長」
ふいにぼくに呼ばれ、課長もびっくりした様子だった。
「うん?」
「あの、この、インジェクタの取り方が、反対番と違うんです」
ぼくは説明を始めた。
「ここに投入される時、これはひっくり返ってます。このOリングが上になっています。ぼくは、このOリングには触ってはいけないよう、教えられてきました。で、ひっくり返してやってます。でも反対番はひっくり返さないで、このままOリングに触れて取ってる…」
ぼくは思い切って言った。
「反対番のやり方、心配です。もしここに異物が付いちゃったら…」
課長はぼくの顔をじっと見ていた。
「わかった。」
ぼくは作業しながら課長と話していた。話しながら作業をすると、仕事が遅れる。遅れると、ラインが止まる。ライン外のエキスパートがぼくの所に駆けつける。
ぼくは、自分がラインを止めていることさえ気づかなかった。
課長がいなくなった。
「かめさん、何話してたんです?」
「いやぁ、緊張しました。手が震えました」
「あはははは、ぼくも(課長がいるから)ここに来るの、イヤでしたよ」
駆けつけたエキスパートが笑って言う。
「すいません、話してたら遅れちゃいました」
まもなくチームリーダーのHさんが来た。
「かめちゃん、何話してたん」
「インジェクタのことで…」
「ああ、言ったの?」
「はい」
はははは、と笑いながら、「なぁにやっとんじゃ~」とHさんが出て行った。
なんとなくイヤな予感がした。
自分が、言ってはいけないことを言ったような気がした。
今度は一般のライン外のSさんが来た。
「かめさん、緊張したでしょう。○×▽□…」
Sさんはぼくの緊張をやわらげようとして、よくふたりでしているエッチ話をしてくれた。
「いや、Sさん、ぼく、インジェクタのこと言っちゃったんです。よかったんでしょうか、言って。」
いいタイミングでまたさっきのHさんが入ってきて、
「かめちゃーん。ものには順番ってのがあるから、ダメよ、言っちゃ…」
だがぼくは、その順番を守ってきたつもりだった。
今までも、言ってきたのだ。それでも何も為されなかった。
Hさんの云いたいことは分かる。最後の順番、『それでも何も為されなかったのには、事情がある。』ということ。『それくらい、分かってよ』ということ。
何度もHさんにも言ってきた。
反対番だろうがこっち番だろうが、客はそんなこと知らない。このクルマを買うのだ。不良品は出したくない。不良の出る可能性のある取り方をしているのを、見て見ぬふりは、したくない。
「すみません。」
「かめちゃんの気持ちは分かるけど…」
今日はここまでです。
疲れました。
些細なやり方の違いならOKだけど、インマニ工程には逆三角形R、逆三角形Sマークがそれぞれ2枚ずつ掲げられている工程である。(車両火災、排ガス規制等における重要な工程だと思って下さい)
エキスパート、チームリーダー、グループリーダー、センターリーダー(役職の名称。徐々にエラくなる、と思って下さい)にも、この、ぼくのやり方と反対番のやり方が違うことは言ってきた。だが、一向に改善されずじまいであることも、このブログで記してきた。
センターリーダーに言ってから、もう3週間は経つ。これで何の処置もされないなら、あとは課長か、とぼんやり思っていた。
本日。滅多に現場に留まらない課長が、ぼくの工程に来たのである。
ぼくの工程は、ホコリなんかをシャットアウトする意味合いで、ビニールハウスのような形状をした「小屋」の中にある。基本的にぼく1人がそこで作業している。
ぼくはいつものように作業していた。昨夜のW杯、日本代表の敗戦のショックで寝不足の頭を抱えながら。
そこに唐突に課長が入ってきた。あっ、課長だ(名前も知らない)。
すると、2秒ほどですぐに出て行った。
あ、行っちゃった。あぁ、インジェクタのこと……。
10秒以内に、また課長が入ってきた。チームリーダーのTさんも一緒だ。
あぁ、言わなくちゃ。滅多に、課長と話す機会なんかない。
「課長」
ふいにぼくに呼ばれ、課長もびっくりした様子だった。
「うん?」
「あの、この、インジェクタの取り方が、反対番と違うんです」
ぼくは説明を始めた。
「ここに投入される時、これはひっくり返ってます。このOリングが上になっています。ぼくは、このOリングには触ってはいけないよう、教えられてきました。で、ひっくり返してやってます。でも反対番はひっくり返さないで、このままOリングに触れて取ってる…」
ぼくは思い切って言った。
「反対番のやり方、心配です。もしここに異物が付いちゃったら…」
課長はぼくの顔をじっと見ていた。
「わかった。」
ぼくは作業しながら課長と話していた。話しながら作業をすると、仕事が遅れる。遅れると、ラインが止まる。ライン外のエキスパートがぼくの所に駆けつける。
ぼくは、自分がラインを止めていることさえ気づかなかった。
課長がいなくなった。
「かめさん、何話してたんです?」
「いやぁ、緊張しました。手が震えました」
「あはははは、ぼくも(課長がいるから)ここに来るの、イヤでしたよ」
駆けつけたエキスパートが笑って言う。
「すいません、話してたら遅れちゃいました」
まもなくチームリーダーのHさんが来た。
「かめちゃん、何話してたん」
「インジェクタのことで…」
「ああ、言ったの?」
「はい」
はははは、と笑いながら、「なぁにやっとんじゃ~」とHさんが出て行った。
なんとなくイヤな予感がした。
自分が、言ってはいけないことを言ったような気がした。
今度は一般のライン外のSさんが来た。
「かめさん、緊張したでしょう。○×▽□…」
Sさんはぼくの緊張をやわらげようとして、よくふたりでしているエッチ話をしてくれた。
「いや、Sさん、ぼく、インジェクタのこと言っちゃったんです。よかったんでしょうか、言って。」
いいタイミングでまたさっきのHさんが入ってきて、
「かめちゃーん。ものには順番ってのがあるから、ダメよ、言っちゃ…」
だがぼくは、その順番を守ってきたつもりだった。
今までも、言ってきたのだ。それでも何も為されなかった。
Hさんの云いたいことは分かる。最後の順番、『それでも何も為されなかったのには、事情がある。』ということ。『それくらい、分かってよ』ということ。
何度もHさんにも言ってきた。
反対番だろうがこっち番だろうが、客はそんなこと知らない。このクルマを買うのだ。不良品は出したくない。不良の出る可能性のある取り方をしているのを、見て見ぬふりは、したくない。
「すみません。」
「かめちゃんの気持ちは分かるけど…」
今日はここまでです。
疲れました。