第608話 臆病な猫

文字数 804文字

 わが old pal (猫、♂、3歳くらい)、福の臆病さには、よくよく閉口させられる。
 日向ぼっこしながら毛並みを整えている福に、ピンポーン、と不意の来客が訪れた時、福はこの世の終わりであるかの如く、血相を変えて腰をかがめながら、炬燵の中か押入れの奥へと急いで入り込んで行く。
 来客は郵便局員であったりアフリカに学校をつくるための援助金の要請であったり新聞の勧誘員であるから、玄関先での数秒間のやりとりで終わる。

 だが福は、「不意」が苦手なのだ。来客が去っても、しばらく炬燵か押入れから出てこない。それからおずおずと腰を引きながら出てきて、玄関先に行って匂いを嗅ぐ。自分のテリトリーが侵害されることを、嫌う。

 福の1日にはサイクルがあって、朝はベランダに通ずる窓越しに座り、外(下界)の監視を行なっている。
 昼はほとんど炬燵の中で寝ている。夜はソファーでぼくや家人のそばにいて、やはり丸くなって寝ている。
 活動時間といえば、午後2時~3時くらいまでに、「遊ぼう、遊ぼう」とぼくに言ってくるか、早朝の4時5時、夜の11時あたり、「遊んで」と訴えてきて、一緒にオモチャで遊ぶことくらいである。
 オモチャといっても、タコ糸で、ぼくがタコ糸をぐるぐる回してやれば、福は目をキラキラ輝かせてタコ糸を追いかけ、ぐるぐる回るだけなのだが。

 ぼくが仕事に出掛ける時、福は一種の恐慌状態に陥る。炬燵にいそいそと駆け込んで、「ニャア~」と甘えた声を出すか、炬燵の中の福に声をかけるぼくに向かって噛み付いてきたりする。
福がひとりでおうちでお留守番している間、誰か不意の来訪者がピンポンを鳴らした時、彼はその小さな頭で何を考え、小心翼翼の翼をどこへ向けているのだろう。

 もっと、堂々としていてほしいのだが、感受性の強い猫なので、その思慮深さ、同居する単純さ、この福の性質ぜんぶが、福なのである。
 これから、遊ぶ。お待たせしました。
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