第418話 期間従業員日記(47)
文字数 1,490文字
「Mさん、これ。」
ぼくはインジェクタを彼に差し出した。それは、Oリング部に、バリがついていたのだ。
たまたま、Mさんがぼくの横にいたので、言ってみた。
「あ、これはマズイですねー。よく見つけましたね。表彰もんですよ。」
「そんなことないですよ。たまーに、あるんですよ。」
「今日は初めてですか?」
「ええ。でも、昨日1コ、ありました。バリ、取って、組み付けました。」
「…慢性的にあった、ということですか?」
「そんな、しょっちゅうじゃないですよ。昨日1コあって、今日、2つ目です。」
「ショートブロック(ぼくの前いた職場)時代は?」
「ありましたよ。でもバリは取って組み付けました。」
Mさん、複雑な表情。
やおら電話の受話器を取って、品質管理部(だと思う)に連絡。ただちに「選別」(またバリの付いているものがあってはならないので、何名かの人がインジェクタの入っている箱を総点検する)が行なわれた。
「…かめちゃん、何か異常があったら、すぐ連絡するのが決まりなもんで、ちょっとマズイかもしれない。なんでもっと早く言わなかった、ってことになる。厳しいこと言われるかもしれないけど、我慢して。」
「…そうですね。はい、引き受けます。」
こんなオオゴトになるとは思わなかった。
最終的に、作業者が注意して製品をつくるのだから、ぼくがキッチリやればいい、という話ではなかったのだ。これは、Aという下請けのメーカーから送られてくる部品で、元請けのウチとしては、そのモノを見せてメーカーに文句が言えるのだ。
「異常を発見したら、作業者はその時点ですぐに連絡をする。」これは、ルールであった。ぼくは、そのルールを守らなかった。
緊張しながら作業を続ける。
しばらくして、直属の上司、Aさんが来た。
「これは、今日、初めて見つけて、報告してくれたんだね?」
「はい。今日、初めてでした。でも昨日も1コあって、バリ、取って、組み付けちゃいました。」
Aさんはうなずいた。
それだけだった。
Mさんがまた来て、「何か言われました?」と訊いてきた。
「言われましたけど、厳しくなかったですよ。」そのままをMさんに説明。
「いつも、きちんとやってくれる人には、厳しく言わないんでしょうね。」
そういうものなのだろうか。
前職場では、「おかしいな、という部品を見つけても、報告しにくい」ということを、ぼくは直属の上司に言っていた。それは、ぼくだけではなかったからだ。報告しても、何の対処もしてくれない、そういう人がいた。
「不良が出易い現場になってる」と、ボスに報告はした。だが、「言い続けてくれ。それでもだめだったら、またオレに言ってきてくれ。」と言われていた。
言い続けなかったぼくも悪いが、何の対処もしなかった上司たちも悪い、と思ってしまったのが、本音である。
この会社には、どうしようもないシステムがはびこっている。蔓延している。声が届かない。上からの指示待ち、上からの指示待ち、「責任」は一体どこで成り立つのか、わからない。
メーカーからの不良品といえば、インマニに付けるOリングやインマニ本体も、「ん?」というのがある。それを報告しても、それはただ捨てられたりする。あやしいのであれば、どこまでがダメ、どこまでがOK、と、説明が欲しい。
ということも、これから、言い続けなければならないのだろうが、本質が変わらなければ、それはムリな話なのだ。
品質品質と謳いながら、「ライン、止めちゃ、ダメ。」
結局、生産重視、という本質を変えないと、どうにもならない。
会社にある、見えないムセキニンタイシツ。形だけのモノ、あほらしい。
ぼくはインジェクタを彼に差し出した。それは、Oリング部に、バリがついていたのだ。
たまたま、Mさんがぼくの横にいたので、言ってみた。
「あ、これはマズイですねー。よく見つけましたね。表彰もんですよ。」
「そんなことないですよ。たまーに、あるんですよ。」
「今日は初めてですか?」
「ええ。でも、昨日1コ、ありました。バリ、取って、組み付けました。」
「…慢性的にあった、ということですか?」
「そんな、しょっちゅうじゃないですよ。昨日1コあって、今日、2つ目です。」
「ショートブロック(ぼくの前いた職場)時代は?」
「ありましたよ。でもバリは取って組み付けました。」
Mさん、複雑な表情。
やおら電話の受話器を取って、品質管理部(だと思う)に連絡。ただちに「選別」(またバリの付いているものがあってはならないので、何名かの人がインジェクタの入っている箱を総点検する)が行なわれた。
「…かめちゃん、何か異常があったら、すぐ連絡するのが決まりなもんで、ちょっとマズイかもしれない。なんでもっと早く言わなかった、ってことになる。厳しいこと言われるかもしれないけど、我慢して。」
「…そうですね。はい、引き受けます。」
こんなオオゴトになるとは思わなかった。
最終的に、作業者が注意して製品をつくるのだから、ぼくがキッチリやればいい、という話ではなかったのだ。これは、Aという下請けのメーカーから送られてくる部品で、元請けのウチとしては、そのモノを見せてメーカーに文句が言えるのだ。
「異常を発見したら、作業者はその時点ですぐに連絡をする。」これは、ルールであった。ぼくは、そのルールを守らなかった。
緊張しながら作業を続ける。
しばらくして、直属の上司、Aさんが来た。
「これは、今日、初めて見つけて、報告してくれたんだね?」
「はい。今日、初めてでした。でも昨日も1コあって、バリ、取って、組み付けちゃいました。」
Aさんはうなずいた。
それだけだった。
Mさんがまた来て、「何か言われました?」と訊いてきた。
「言われましたけど、厳しくなかったですよ。」そのままをMさんに説明。
「いつも、きちんとやってくれる人には、厳しく言わないんでしょうね。」
そういうものなのだろうか。
前職場では、「おかしいな、という部品を見つけても、報告しにくい」ということを、ぼくは直属の上司に言っていた。それは、ぼくだけではなかったからだ。報告しても、何の対処もしてくれない、そういう人がいた。
「不良が出易い現場になってる」と、ボスに報告はした。だが、「言い続けてくれ。それでもだめだったら、またオレに言ってきてくれ。」と言われていた。
言い続けなかったぼくも悪いが、何の対処もしなかった上司たちも悪い、と思ってしまったのが、本音である。
この会社には、どうしようもないシステムがはびこっている。蔓延している。声が届かない。上からの指示待ち、上からの指示待ち、「責任」は一体どこで成り立つのか、わからない。
メーカーからの不良品といえば、インマニに付けるOリングやインマニ本体も、「ん?」というのがある。それを報告しても、それはただ捨てられたりする。あやしいのであれば、どこまでがダメ、どこまでがOK、と、説明が欲しい。
ということも、これから、言い続けなければならないのだろうが、本質が変わらなければ、それはムリな話なのだ。
品質品質と謳いながら、「ライン、止めちゃ、ダメ。」
結局、生産重視、という本質を変えないと、どうにもならない。
会社にある、見えないムセキニンタイシツ。形だけのモノ、あほらしい。