第41話 生きるって?

文字数 1,069文字

 自分のような人間は、生きていけないのではないか、と思っていた時期が、長くある。
 40年近く生きて、その半分以上は、その思いにとらわれていたと思う。
 その「自分のような人間」とは、ひとつのことを続けられない人間、ということだった。

 大学を辞めた後から、具体的には始まっていた。
 だが学校に在籍していたときから、私の「生きていけるのか」という不安は強くあった。
 まわりにいるみんなと、同じになれない、とでもいおうか、
 要するに孤独感のようなものの中に、その不安は根ざしていた。

 といって、協調性がなかったわけではない。
 サークルやグループで旅行に行ったり、友達らしき人達はいたのである。
 だが、そういった輪の中にいて、どういうわけか「自分は違う」という違和感が、仕掛けられたワナのように、あったのである。
 さかのぼれば、やはり小学生の頃から厳としてあったのである。

 みんなと同じになれない。
 この感覚が何なのか、おそらく、まったく感覚的なものであろう。
 すると、私に罪悪感やら不安、この世で生きていく上での、決定的な、「息を吸う資格」とでもいうのか、生きていてもいい許可証のようなものが、私には、ない、と思えてくるのだった。

 働かないと生きていけない、というのは、ほんとうのようでほんとうではない。
 働かなくたって、親のスネをかじったりして、何とかどうにか、死なないように生きることは、できるのではないだろうか。

 だが私は、やはり働かないと生きていけない、と思っていた。
 しかも職を転々と変えるなんて、人非人のすることだと思っていた。
 だが私は、働かなくても生きていけるのではないか、と思いつつも、やはり働かないとダメだと思い、そして職をけっこう変えて生きてきているのである。

 そんな私に、今の期間従業員という職種は、非常に向いているようだ。
「ずっと」そこに勤め続けなくて済むのである。
「何ヵ月間」そこで働きます、という契約期間によって雇用されるので、その期間が終われば、私はもう働かなくて済む、と思うことができるのだ。

 期間満了金というのも何十万円か支払われるし、失業手当は翌月あたりからもらえ、それでしばらくは食いつないでいけるのだ。
 だが私は6ヵ月なり11ヵ月なり働いて、退社し、その翌月からまた契約をして働き出している。
 働いていないと、不安になるからである。
 そんな繰り返しを、ここ5年位やって、生活している。
 ただお金を稼ぐために働いているのである。そこには、生きる意味なんて皆無である。まるでお金なんて意味がないかのようにだ。
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