第108話 花火の横に

文字数 312文字

 自転車で10分ちょっと行けば、ぞろぞろと人が歩道橋を渡っていた。
 夜店が並び、浴衣姿のお嬢さんが目を引く。
 ドーン、ドーン、と花火が打ちあがる。

 川の上では、「手筒花火」が。舟の上で男が花火を抱え持ちながら、降りかかる火の粉に耐えていた。
 空を見ると、また花火。
 ひとつ終わって煙が風に流された時、なんとなくそのまま見ていたら、ぽっかりお月さんがいた。
 半分顔を隠していたが、いい月だった。
 派手な花火がまた打ちあがる時も、その月を見ていた。ちょうど、打ちあがる花火の横にいるのだ。
 月は、ただ、そこにいるだけだった。
 しかし、なんだか、とてもよかった。花火ではなく、ただそこにいるだけの、月が。
(何を見に行ったのかね?)
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