第860話 福の居場所

文字数 729文字

 ダイニングキッチンにある、デスクトップのパソコンの前に座っていたぼくは、椅子を離れ、冷凍庫から氷を出してコップに入れていた。
 すると、それまでぼくの後ろにいて、フローリングの床の上で箱座りしていた福が、ぼくの座っていた椅子にビョーンと乗った。そしてそのまま丸くなり、眠る体勢に入った。
 もう、ぼくはこの椅子に座れない。

 福の乗った椅子を、横に移動し、ぼくはキッチンにあるテーブル用の椅子をパソコンの前に移動して、座る。
 座り心地は、パソコン用の椅子のほうが、断然良い。けっこうフカフカの座布団をのせているし(このフカフカが福は好きなのだ)、テーブル用の椅子は、いささか固く、長時間座っていると、おしりが痛くなる。

 こう書いている今も、福はぼくのフカフカの椅子の上で、丸まりながら、顔だけ仰向けになって両手をバンザイさせた格好で、眠りに落ちている。

 夏が過ぎると、福はぼくのこのパソコン用の椅子に好んで座るようになる。ぼくがパソコンに向かっていると、後ろから背伸びしてきて、ぼくの肩などをチョイチョイ触ってくる。
「ねェねェ、ここ、ボクの椅子だよ」と言わんばかりに。
 ぼくは笑うしかなくて、「あ、座る?」と椅子を回転させて福が座りやすいように向ける。
 すると、福はビョーンと乗ってきて、丸まって眠るのだ。

 しかし、横で、スヤスヤと眠る福を見ていると、なぜか笑いが込み上げてくる。
 よかったね、ふかふか、大好きだもんね。
(しかしキッチン用テーブルの椅子は小さくて硬い。木製の回転椅子、ここにフカフカの座布団をのせて、これを福の椅子にすれば、と、読まれてる方は、思うかもしれない。けれど、この椅子は、福には小さすぎるのである。ほんとうに福は、立派に育ってくれた…)
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