第233話 インターネット・ラブ

文字数 1,111文字

 なんていう言葉もあったのである。

 ぼくは当時結婚していて、妻がぼくの文章をホームページにつくり公開した。このホームページを妻は熱心に更新してくれて、それなりにいろいろな人たちからメールを頂いていた。

 その中のひとりの女性と、ラブ関係に陥ってしまったのだ。
 といっても、1度会っただけで、いわゆる男女の関係にはならなかった。
 だが浮気には違いないのである。
 愛しているだのどうだのという言葉を吐いたメールのやりとりを、妻に見られてしまった以上、浮気はその時点で成立したのだ。

 おまけにぼくは、当時あった、知人のつくった教育関係のメーリングリストというものに参加していた。それは、ぼくがそのメーリングリストにメールを出せば、その参加者全員にぼくのメールが届くという仕組みであった。
 そこには100人以上はいたのだが、ぼくは彼女へのメールを、メーリングリストへ間違えて送信した。つまり100人以上の人たちに、ぼくの「愛してる、云々かんぬん」メールが送られたわけである。

 それはそれとして、ぼくが云いたいのは「言葉の恐さ」だ。
 言葉はほんとうに難しい。軽く吐いても、どんなに考えて吐いても、それらの言葉は受け止める相手によってどうとでも受け取られてしまうからである。

 つまりぼくの吐いた言葉は一度無重力の宇宙あたりを経由して、それから相手にたどり着くかのようだ。そのまま、一直線のベクトルで相手には刺さらない。しかし、チャンと相手には言葉という形で伝わっているのだ。

 文通時代を懐かしく思ったりもするが、メールも手紙も基本原理は同じである。
 手紙のやりとりを毎日のようにしていた恋人がいたが、たしかにそれで「愛は育った」。会えない時間が、愛を育てた。
 だが、その愛は何だったんだろうと思うのだ。相手のことを思っているばかりに、自分の中で相手が風船のように膨れ上がり、いざ久し振りに会ったら「パン!」と破裂した。

 現実に離れた場所にいる相手を度外視し、自分の中でいわば自分がつくりあげたみぢかな相手にとらわれすぎていた結果である。現実と、自分の中との、差異。
 インターネット・ラブも同じ原理であった、「恋愛」に発展する段階においては。

 こう考えていくと、一緒に暮らすようになるまでは、それぞれ離ればなれにいるわけだから、好きな相手のことを思う時間が多いのは当たり前か、と思える。ただ、インターネットから恋愛に向かう時、「顔の見えない相手」に対して、自分の想像力がどんどん肥大していく落とし穴が、顔の見えないぶん、大きな口を開けて待っているように思う。
 さて、何が云いたかったのか分からなくなってきたので、無責任に筆を置く。(筆?)
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