第349話 バラバラな食と趣味

文字数 1,115文字

 さすがに今日はあのラーメン屋に行かなかった。
 行こうと思えば行けたし、むしろ行きたかった。辛いラーメンを食べたかった。
「身体、おかしくなりますよ、毎日あそこのラーメン食べてたら」と職場のAさんからも言われたが(脂っぽくて濃~いスープなのだ)、まだ身体は大丈夫である。むしろ、求めている。

 ここのところ、家で何かチャンとしたものを食べる気にならない。辛いものばかり求めている。明日のことなど忘れて、辛いものをイヤというほど食べて、汗をかいてビールを飲みたい。

 元来ぼくはご飯が好きだし、納豆と味噌汁とご飯と野沢菜だけでかなり幸せに食べることができる。
 だが、家人は辛いものは全く受けつけないし、とにかくほんとうに小食なのである。
 彼女は実家にいた時、母親と顔を合わすのがイヤで、職場から帰ってきても自室でお菓子とか何かで済ませていたらしい。その理由はぼくには分からないけれど、ともかく食が細い。

 ハンバーグや餃子を作って、キャベツの千切りやブロッコリーも添えて、ご飯を一緒に食べたいと思うのだけど、一生懸命作っても、残らないように一生懸命ぼくが食べることになってしまう。ほとんど彼女は食べない。餃子は3、4コ食べれば満足のようで、ご飯は半膳もないくらいで充分なのだ。
 もちろん彼女の小食を責めることはできない。彼女とぼくの胃は違うのだ。
 ただぼくはとにかく辛いものが食べたい。だからココイチのカレーの「4辛」あたりを食べたいし、あのラーメンを食べたい。だが彼女はカレーもラーメンも嫌いなので、一緒に食べに行けない。

 畢竟、家でもバラバラな食生活を送ることになる。
 こないだなんか、ぼくはコンビニでおにぎりを買ってきて食べて、彼女はスーパーでお惣菜を買ってきて食べていた。食べる場所も、ぼくはパソコンの前、彼女はテレビの前、と別々だった。このようなことが、ここしばらく多くなっている。

「常識」的にはよからぬことかもしれないけれど、まぁこれはこれでいいのではないか、と思っている。
 考えてみれば、彼女はテレビっ子だしぼくはテレビ見ないし、音楽をぼくはいつも聴くし彼女は全然聴かないし、読む本も彼女は外国の恋愛小説みたいなのだし、ぼくは大江とかドストエフスキーだし、酒タバコをぼくはやるけど彼女は全然やらない。…これでよく一緒にやっている(やっているのかな?)と思う。

 まぁこれはこれで、とは思うのだが。

 で、まぁ毎日ぼくだけラーメン屋で夕食というのもちょっと気が引けて、今夜は冷凍だけど出来合いのハンバーグをレンジでチンしてセロリを添え、あさりの豆板醤入り蒸し焼きを出したのだが…やっぱりぼくが一生懸命食べた。
 まぁ、これはこれで…。
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