第343話 期間従業員日記(40)

文字数 1,393文字

 昨日、作業するにあたっての「危険予知」に関するミーティングのようなもので、30分残業をした。ぼくが書記係であった。
 こういうことを書くのはあまり気持ちのいいものではないのだけど、ぼくはテキパキと人の意見を用紙に要領よく書き続け、そばにいた上司からも「何なんだ、こいつ、ヤルジャンカ」みたいな目で見られ、つらかった。
 ただぼくは文として何かを書くことに慣れているし、学校に行かずに本ばかり読んでいたから、漢字を(たぶんその場に居合わせた人たちより)少し知っているだけだった。
 何より、手っ取り早くまとめて、早く帰りたかった。発言が少ないことに業を煮やして進行役っぽいことまでやってしまった。

 しかしほんとうにつらかった。自慢話になってしまうけど(こんなの誰も聞きたくないよね)、ぼくの字は綺麗らしいのだ。おまけにスラスラ難しそうな漢字を平気で書くように見られて、まわりに座っている人たちが熱心にぼくの鉛筆の先へ注視を注いでいるのが(マンガの…>、…>、…>、という、あの目線だ)あって、指先が震えてしまった。
 いつも順番で変わる書記係、あんなに手元を誰も注視していない。(あぁ、でもこうして今ブログに書いていると、なぁんだ、全然たいしたことないじゃん、と思えてきた。書いてよかった。)

 さて、ぼくの小心と自意識過剰が相乗って、残業30分が過ぎ、ロッカーに向かい、バスターミナルに向かう。ぼくの胸が、痛み始めた。「過呼吸」である。久し振りになった。ほんとうにこれは、過度の緊張、強いストレスをひとりでしょい込んだ時に起こる。ちゃんと発信してくれる身体さんに、感謝である。
 そして待合室でウォークマンで音楽聴き始めたら、ゆっくり痛みも去った。全く気持ちの問題であることを再認識。

 今日また誰かから「正社員試験受けないんですか」と訊かれた。ぼく、ジプシーみたいに生きたいんです、と半分本気で笑って答える。
 急に話を変える。
 この会社は、ムダが多い。
「社長からのメッセージ」を綺麗な紙に印刷して配布される。何か書いてある、カラーで、図書館でもらうカレンダーのようなカードが配布される。
 エコ月間、とかの文字とマークの入ったバッジが配布され、帽子に付ける。もう1コ、何とかかんとかのバッジも配布され、やはり帽子に付ける。

 たしか8万人くらい、従業員がいる会社である。
 こんなのに経費をかけるなら、もっと品質向上のための設備に投資しろ。
「コミュニケーション月間」?
 誰がそんな言うことをきく? 形だけだ、と、みんな分かっている。
 そもそもコミュニケーションなんて、月間だからって意識してするもんか?日頃からのもんだろ。
 さらに先日から、「安全作業をする心構え・運転するにあたっての心構え」みたいなものを短冊に書かされて、それをわざわざ薄いセルロイドに1枚1枚パウチして、提灯が連なる下に、掲げられている。1人1人の従業員が書いたものだから、一体、1つの課だけで何百枚になるのだ。ただ形だけで、書いたことをほんとに肝に銘じて実践する人はそのうち何人いるのか。
 こういう、上の人たちの考え(考えてるのか? ほんとに従業員のことを)と下で働く人たちの歯車が噛み合わないような、「形だけ」と分かっているムダな形は、早急にやめたほうがいい。お金の使い道を、大企業はほんとうに考えた方がいい。
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