第362話 東京、池袋のお嬢さん。ティファニー。

文字数 1,352文字

 約束した待ち合わせの時間までまだだいぶあったので、マクドナルドに入って100円のアイスコーヒーを頼んだ。喫煙室は、ガラスの向こう。ガス室のようである。
 ちょうどガス室に入った所の4人掛けのテーブルが空いたので、そこに座る。やっとタバコを吸える。

 ほどなく、なにやら女の子の2人組。「横、いいですか?」「はい、どうぞ。」
 2人はバッグを置いて、注文を取りに行き、戻ってくる。
「目白駅で降りて、でも乗った電車、一番後ろの車両だったの。目白駅って、トイレ、一番前にあるじゃん。…間に合いませ~ん(笑)」
「そんなに飲んだの?」
「生ビール2杯と、…。吐いてて、人間終わったな、って思った」
「いや、人間終わってない。女は終わったかもしれないけど(笑)」
 そのうち、袋に入った何かをシャカシャカ振り始めた。けっこうあちこちのテーブルから、このシャカシャカ音は聞こえてきてはいた。どうもその紙袋の中にはフライドポテトだか何かが入っていて、シャカシャカしてから食べるものらしい。

 2人はそのうちケータイで写真を撮り始め、今度はカシャ、カシャ、という音が聞こえ始めた。「今度紹介される男の子が…」どうのこうのと話しながら去っていった。
 やれやれ。
 ぼくは池袋のカプセルホテルに泊まって、翌朝、東武デパートへ。そういえば、家人が「ヒカリモノが欲しいな」と言っていたのを思い出してしまう。
「TIFFANY」とか書かれた店も見つけてしまった。なんともシックなゴールドの店内の雰囲気。店先には、200万円台の何かが1つ、箱みたいなガラスの中に入ってあった。

 ぼくは所謂ブランドには全く興味がないけれど、ティファニーは可愛いナ、と感じていた。しかし…。
 まぁいいや、入るだけなら。で、入ってみる。ぐるりと「O」型にショーケースがあって、一応見ながら歩く。半周したところで、むっ、19800円。銀のネックレスである。植草克秀みたいな店員が、声を掛けてくる。片方の手には、手袋をはめていた。
「これはティファニーの代表的な作品なんですよ」
「ふーん、いいですねぇ、何ていうの?」
「ティアー・ドロップ、といいます」
「ティア…ああ、涙の…」
 あと、代表的なものといえば、オープン・ハートなのだそうだ。
「うん、これ下さい」 Tear Drop.

 ぼくの4、5m位先には、お洒落な帽子と眼鏡をした男が、女と一緒に熱心に指輪だか何だかを見ている。見ると、10種類くらいの指輪がショーケースから出されていて、なかなか迷っている風情。でもなんか幸せそうだナ。
 ぼくの左隣から女性が「クリーニングをお願いします」と、何かを店員に渡していた。

 可愛い小さな手提げ袋にぼくの買った商品が入れられた。
 ショーケース越しに受け取ろうとしたら、店員がぼくに渡してくれない。?と思ったが、ああ、そういうわけか、と苦笑い。店員も優しい笑み。
 店を出るまで、店員が持って、ぼくを見送る形で手提げ袋を渡してくれた。
 どうもありがとうございました、と丁寧にお辞儀をされた。受け取って、歩き出しながら、どうもありがとう、とぼくも礼を言った。
 やれやれ。
 でもいい買い物だったと思う。家人も喜んでくれたし。
「よく入店拒否されなかったわね」みたいなことも、言われたような気もするが。
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