第324話 異性をおもう

文字数 995文字

「好みのタイプは?」と訊かれても、困ってしまう。
 仕事中に、たまに訊かれる。(ちゃんと仕事はしてますよ)
 男ばかりの職場では、よくある話である。
 ぼくは返事に窮する。
「タレントとか。」って水を向けられても、やはり困る。
「可愛い系とか、綺麗系とか。」
 ぼくが考え込んじゃって返答に困っていると、訊いた相手もいささか困ってしまうようだ。申し訳ない。
 たぶん、ふつうなら、「並、下さい。」「はい、並、一丁~!」くらいの牛丼屋のノリのような会話であるはずなのだ。
「…芸能人の女の子のポスターとか、部屋に貼ったことないですか。」
「…プロレスラーのならあるけど。」
 で、プロレスの話へ流れたりする。

 ぼくはほんとうに、好みのタイプというのが、ない。ないというか、わからない。ぼくは、どういうひとが、「好みのタイプ」なのだろう。
 そりゃテレビなんかで「あ、可愛いな」「素敵だな」とか感じたことはある。あるけれど、それは単なる印象的なものであって、「好み」というのはまた別の次元の話である。と、ぼくには思える。
 憧れとか、イイナァ、という類いのものには、当然のことだけど幻想がかなりの大部分を占めている。そしてもちろん幻想は幻想であって、現実ではない。

 ぼくにとって「好みのタイプ」とは、実際にそのひとと会ってみないことには、ほんとうにわからないのだ。話をし、一緒にいるときに、「あ、こういう人が、自分の好みのタイプだったんだ」と気づく。情けないことだけど、相手に気づかせてもらうのだ。
 その相手に、「ほら、ワタシがアナタの好みのタイプなのよ」と、『教えられる』のだ。
 だから、そういう相手と実際に会ってみない限り、ぼくの中には最初から好みのタイプというのは、ほんとうに『ない』のだ。淋しいといえば淋しい話である。

 もう少し具体的に書けば、それは、相手とぼくの、いわゆる相性というか、相手とぼくの間に流れる何かのようなもので、それを目の当たりにしない限り、好みも何も、ほんとうに考えられない。ぼくがぼくのままでいられ、相手も相手のままでいてもらって、おたがい好きになり合える関係、関係は1人では成り立たないのだから、その相手こそ、有無を言わさぬ「好みのタイプ」である。
(こういう点においては、かなり現実主義である。いつもは、妄想主義というか、ヘンなことばっかり考えているんだけど。ん?これも妄想のうちか。)
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