第779話 涙

文字数 513文字

 だいたい、「動物モノ」のテレビで、たとえば盲導犬が、人間にほんとに奉仕して、ひそやかに晩年を迎えるときなんかが放映されると、あっけなく、泣いたりするのだ、家人が。
 すると、それを(ぼくも同じテレビを見ているので)見ていたぼくも、泣く家人を見ながら、笑うのだが、泣くのである。

 涙は、いい。笑うより、泣くほうが難しい。
 だが、なんとなく、人前では、泣きたくないような自分がいる。そこで「終わっちゃう」ような、おさまっちゃうような気がするためだ。こんなもんじゃないだろう、そんなもんじゃないだろう、という、どこかイキがる自分が見え隠れ。

 でも泣く時はほんとにスラスラと泣いてしまう。
「それはね、かめくんにホトケ心があるからだよ」と、映画をつくっている人に言われたことがあるが、ホトケ心じたいがよく分からないので、あまりピンと来なかった。

 後にも先にも、ぼくがあんなに泣いたのは、スズキさんという、世話になった人のお子さんが、喘息で亡くなった時だった。なんでこんないい人が、こんな目にあわなきゃいけないのか、と、そのお子さんの死に、納得がいかなかったのだ。
 涙の裏には、怒りがあった。
 なんで? という、どうしようもない悔しさが。
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