第584話 被害妄想

文字数 924文字

 ぼくの右隣りで働くOちゃんが、朝からトゲトゲしたオーラを発散していた。
 オレ、なんか悪いことしたかな?と、ぼくはおもう。
 なんとなく時間が流れて、「Oちゃん、元気ですか。」
 Oちゃんは、「…メールの返事がね、来ないんです。」
「そうなんだ。返事が来ない…。」
「明日、ケータイ、変えてやろうかと思ってます。」

 残業の、どうでもいいような労働時間中、Oちゃん、なんとなく寄ってきたので、
「Oちゃん、試練の時です。そうやって、成長するよ、自分のこと、相手のこと、考えて考えて。いい時じゃないですか、そうやって、考えて考えて、○×△□…」
 なんだか話す。

「そうッスね…。でも、ほんとにいい人ッスね、かめさん(Wow, ほめられたゾ、おれ!)。そんな、本気で話してくれる人、いないッスよ。」
 ああ、こんなこと書いてたら、急にイヤになってきた。ぼくは、ぼくであります。いい人なんて、信じちゃダメ。
 まぁいいや、で、Oちゃん、続けて言う。「○○ってヤツが、ぼくのこと、また悪く言ってるんです。」
「○○?」
「はい。あいつ、許せないッス。」

 Oちゃんには、被害妄想癖がある。
 想像するに、何か自分に強いストレス、あるいは客観的に見る自分と相対した時、Oちゃんはそれを誰かのせい、他者のせいにする。
 そして、まるで実際、ほんとうに○○さんがOちゃんの悪口を言っているのが、聞こえてしまう。
 それが幻聴であることは、Oちゃんを知る人から、ぼくは聞いている。
 誰もOちゃんの悪口なんか言っていないのに、聞こえている…
 ぼくもOちゃんと話していて、たまに訳の分からないことを言っているのを聞く。

 …こう書いていると、ぼく自身が間違っていて、Oちゃんが、ほんとはほんとに聞こえていて、Oちゃんが、ほんとは正しい、真実を生きているのではないか、と、自分を疑いたくなる気持ちが強く湧き出るのを否めないが…

 しかし、「Oちゃん、幻聴だよ。誰もそんな悪口なんか言ってないよ」と、ぼくは言えずにいる。
 そういう「悪口を言う」○○とは、どんな人なんだろう? なぜそんなことを言うのだろう、と考えてしまう。Oちゃんの前で、ぼくは。
 でもOちゃんには聞こえているのだから、否定、できないのだ。
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