第226話 期間従業員日記(15)
文字数 1,511文字
1直(6時30分~15時15分)2直(16時15分~1時)という交替制勤務なので、ぼくが家で寝てたりする時、ぼくの工程で作業している人がいるのである。
もう詳しく書いてしまうが、ぼくの工程「インマニ」を組み立てる作業は、重要工程といわれている。逆三角形の「R」マーク、「S」マークがそれぞれ2つずつこの作業場には付いていて、これは重要を意味するらしいのだ。
なぜ重要なのか?
ガソリンが流れる部分だからである。
つまりぼくが不良品をつくったら、車両火災につながるというのだ。
ぼくのつくった不良品が、形は綺麗で高級車といわれるクルマに搭載され、火を噴いてそのクルマに乗った人が死んでしまっては、ぼくは殺人者になってしまうのである。
昨日。
ぼくが自分の作業場に着くと、デッキブラシに似た形状の「ほうき」(掃除の時に床を掃くほうきである)があった。
どこにあったか?
2台ある「リーク・テスター」という機械の間にである。
ガソリンが漏れてはならないために、エア(空気)で、漏れがないかどうかをチェックする機械が「リーク・テスター」。
1台のリーク・テスターは燃料系の漏れがないかどうかを確認する。
2台目のリーク・テスターはインマニそのものに傷や欠陥があって、そこから漏れがないかを確認する。
「ほうき」はその1台と2台目の間にあった。
ぼくの仕事はインマニを組み立てて完成後、1台目のリークにかけるまで。
そこで異常がなかったインマニを、別の人が2台目のリークへ流すのだ。
さて、ここで問題。ほうきの「はけ」はインマニの下面に触れて、2台目のリーク・テスターへ流される。
そのインマニの下面には、「インジェクタ」というガソリンの噴射口が六箇所ある。
このガソリンの噴射口に、「触れてはいけない」のだ。
だからぼくはインジェクタをインマニに組み付ける時、その噴射口に触れないように作業してきた。
だが、このほうきの「はけ」は堂々と触れているのだ。
ぼくはライン外のエキスパートの一人に言った、「これ、いいんですか?危ないですよ。」
「よくはないね」と言いながら、ライン外はほうきを取り除いてくれた。
そうしてぼくは安心した。
だが、今日。
作業場へ行くと、またあのほうきが、あの場所にのほほんとあるのである。
またライン外に言って、取ってもらう。
しばらくして上司(エキスパートより立場が上の人)がたまたま来たので、ぼくは事情を話した。
「Aさん、反対番はあそこにほうき置いてやってますよ。インマニの下面の汚れを取るためなんでしょうけど、インジェクタのガソリンの噴射口に当たります。大丈夫なんですか?」
上司は「よくない。やめたほうがいい」
そばに置かれたほうきを手に取り、上司は言った。
たまたまそこに来たライン外が、「ああ、それ、反対番がやってるみたいです」
「今かめちゃんから聞いたけど…」
「明日、やめるよう、言っときます」
ホッ。
しかしだよ。
直あたり、300台は生産してるんだよ。
あのガソリンの噴射口に異物が付いて、そのクルマを買った客はどうなるのよ?
昨日の段階でやめさせておけば、今日の300台、あのほうきに触れることもなかったんだよ。
反対番は、もっと恐ろしいこともやっていたのだが、これは書くには余りある。
ぼくが云いたいのは、この会社に蔓延している「ひとまかせ主義」「自分のところから不良が出なけりゃいい」「上の言うことに従っておればいい」という、『無責任主義』です。
いくら反対番の決めた仕事のやり方だからって、見て見ぬふりはないでしょう。
しかしこうして書いていると、なんだか自分がエラソウでイヤだな。
もう詳しく書いてしまうが、ぼくの工程「インマニ」を組み立てる作業は、重要工程といわれている。逆三角形の「R」マーク、「S」マークがそれぞれ2つずつこの作業場には付いていて、これは重要を意味するらしいのだ。
なぜ重要なのか?
ガソリンが流れる部分だからである。
つまりぼくが不良品をつくったら、車両火災につながるというのだ。
ぼくのつくった不良品が、形は綺麗で高級車といわれるクルマに搭載され、火を噴いてそのクルマに乗った人が死んでしまっては、ぼくは殺人者になってしまうのである。
昨日。
ぼくが自分の作業場に着くと、デッキブラシに似た形状の「ほうき」(掃除の時に床を掃くほうきである)があった。
どこにあったか?
2台ある「リーク・テスター」という機械の間にである。
ガソリンが漏れてはならないために、エア(空気)で、漏れがないかどうかをチェックする機械が「リーク・テスター」。
1台のリーク・テスターは燃料系の漏れがないかどうかを確認する。
2台目のリーク・テスターはインマニそのものに傷や欠陥があって、そこから漏れがないかを確認する。
「ほうき」はその1台と2台目の間にあった。
ぼくの仕事はインマニを組み立てて完成後、1台目のリークにかけるまで。
そこで異常がなかったインマニを、別の人が2台目のリークへ流すのだ。
さて、ここで問題。ほうきの「はけ」はインマニの下面に触れて、2台目のリーク・テスターへ流される。
そのインマニの下面には、「インジェクタ」というガソリンの噴射口が六箇所ある。
このガソリンの噴射口に、「触れてはいけない」のだ。
だからぼくはインジェクタをインマニに組み付ける時、その噴射口に触れないように作業してきた。
だが、このほうきの「はけ」は堂々と触れているのだ。
ぼくはライン外のエキスパートの一人に言った、「これ、いいんですか?危ないですよ。」
「よくはないね」と言いながら、ライン外はほうきを取り除いてくれた。
そうしてぼくは安心した。
だが、今日。
作業場へ行くと、またあのほうきが、あの場所にのほほんとあるのである。
またライン外に言って、取ってもらう。
しばらくして上司(エキスパートより立場が上の人)がたまたま来たので、ぼくは事情を話した。
「Aさん、反対番はあそこにほうき置いてやってますよ。インマニの下面の汚れを取るためなんでしょうけど、インジェクタのガソリンの噴射口に当たります。大丈夫なんですか?」
上司は「よくない。やめたほうがいい」
そばに置かれたほうきを手に取り、上司は言った。
たまたまそこに来たライン外が、「ああ、それ、反対番がやってるみたいです」
「今かめちゃんから聞いたけど…」
「明日、やめるよう、言っときます」
ホッ。
しかしだよ。
直あたり、300台は生産してるんだよ。
あのガソリンの噴射口に異物が付いて、そのクルマを買った客はどうなるのよ?
昨日の段階でやめさせておけば、今日の300台、あのほうきに触れることもなかったんだよ。
反対番は、もっと恐ろしいこともやっていたのだが、これは書くには余りある。
ぼくが云いたいのは、この会社に蔓延している「ひとまかせ主義」「自分のところから不良が出なけりゃいい」「上の言うことに従っておればいい」という、『無責任主義』です。
いくら反対番の決めた仕事のやり方だからって、見て見ぬふりはないでしょう。
しかしこうして書いていると、なんだか自分がエラソウでイヤだな。