第640話 四国の友達の

文字数 507文字

 S君が鬱病になったと聞いた時は、ショックだった。S君は、障害者を企業に雇ってもらえるよう、その橋渡しをする内容の仕事をしている。
「天下り」の人たちがやってくる職場で、かれらはS君の職場に定住することなく、コロコロ変わっていくと聞いた。「天下り」の受け入れ先は、いっぱい用意されているらしい。

 S君の言葉で、自分の中に残って離れないのは、「他者には優しくなれるけど、自分には優しくなれない」というようなニュアンスの言葉だった。S君自身、鬱病であることから、「生命保険に入れない」という『差別的な処置』を受けたということだった。鬱病の人が、みな自殺するわけでもあるまいに。

 他者(障害者)が何か差別を受けたら、その他者を励ましたり、一緒にガンバッて行こう、とすることができるのに、「いざ自分が差別のようなものを受けると、自分を励ましたりガンバッて行こうとすることが、なかなかできない」ということ。

 その気持ちというか、気持ち、S君の言葉の中にある気持ちが、ぼくの中にもあって、根本的に共鳴するように、あり続けているということ。

 他者と自己、自己と他者…それぞれにあるものなのか、その間にあるものなのか。
 何か、ある。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み