掌(たなごころ)の月 6
文字数 1,061文字
「そうそう見張っておらんでもつまみ食いなどせぬわ!」
「いや、解らぬ。主は生きた者からも魂を抜くからな」
コヤツら……俺と言う「飯」の前で何を牽制しあっておるのか……。
「あのな、お主らいい加減にせぬか?」
溜息まじりに苦言を呈すると、2人にまとめて、主は黙っておれ! と言われる始末。
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「にしても、何故、鸞は童子のままで居るのだ? 体型的に不利であろう」
鸞の分の夜具まで準備してから、俺はようやくと腰を下ろした。
「それは、波武が犬のふりをしているままだからだ!」
「ほう……」
一応、ハンデをハンデとして認め、同じ不利な土俵に居てやるというポーズなのだな。波武は片眉を上げると、ヤレヤレと言った調子で床に伸びた。
「そもそもコヤツは欲張りなのよ!」
鸞が頬をふくらまして波武をねめつける。
「欲張りも何も
アレ
は吾が先に見つけたのだ。お主こそ、吾が見定めたモノに引っ付いてきて何様顔であるか。図々しい。」目の前で、童子と犬が言い争っておる。
どちらも人ならぬ者として優位に居りながら、争いの原因が己の「食い物」とは、片腹痛い。俺は段々可笑しくなってきた。
「ふふっ……」
そう思ったら笑いがこらえられなくなった。
最初は喉の奥に笑みを押し込めていたが、そのうち肩が揺れた。
やがて、腹の肉が痙攣したようにひきつった。
「はははは! 下らぬ! ……まっこと下らぬことで……主らは……」
笑いながら言うと、流石に2人とも興が覚めたようで、呆れ顔で俺を見た。
「どうせ
喰う時
は同じくしても、喰うところ
は別なのであろう。俺は決して渋らぬから仲良くすればよいのに」童子と犬は複雑な表情で互いを見やり、再び空を向いてそれぞれ溜息をついた。
「今日、逢うてみて思うたのだが……」
鸞が俺に言った。
「鳰は……随分とお前の心を占めて居るのだな」
「それはな」
コヤツらに話して解ってもらえるだろうか。
「家に捨てられ世からも見放された時に、鳰だけ俺を慈しんでくれたからな。鳰が思ってくれたから俺がいるようなものだ。逆に言えば、鳰が居なければ俺はいないのと一緒だ。されば、鳰がよく生きられるように骨を砕こうと思うのは
「ほう……そこまで言うか」
鸞は溜息をついた。波武に一瞥を呉れる。
「さらば、一時休戦じゃな!」
えっ?
俺は息を呑んだ。スパンと視界が開けたような気がした。
コヤツら、まさか鳰も喰う気であったのか?